[ 僕からのハッピーバレンタイン ]





てっきり内部推薦で氷帝の大学部まで行くものだと思っていたら、先輩は違うらしい。
推薦で合格を決めているテニス部の先輩方は、体力維持にと引退した部活へ参加している。
元マネージャーの先輩だけは、国立大学を目指しているから二次試験に向けて必死になっていた。
だから休みの日に会うこともなく、受験勉強を図書室でしている先輩を迎えに行って、駅まで一緒に帰るのが二人だけの時間。
今日も、部活を終えて部室の戸締りをして帰ろうとする頃、図書室の灯りはまだともっている。

「毎日迎えに行く日吉も律儀だよな」と鳳に言われた。
律儀なんてもんじゃない。
夜道は危ないから家で勉強すればいいのに、と何度も言った。
けれど、先輩は聞く耳持たず。
図書室は居心地がよいらしく、勉強もはかどるそうだ。
家に帰ったら、ついつい怠けてしまうというのもわかるけれど、せめて明るいうちに帰ってくれればいいのに。

図書室の中には、先輩と同じように勉強している生徒が何人かいた。
夜の八時、図書室も解放時間が終わる。
司書の先生が、「はい、今日はこれでオシマイ!」と声をあげると、先輩は顔をあげて俺のほうを見る。
少し微笑んで、机の上に広げていた参考書とノートを鞄にしまい、俺の元へ駆けてきた。





「日吉くん!部活、お疲れさま」

先輩こそ、勉強お疲れさまです」

「勉学が仕事ですからねー。受験生だもん」

「推薦で受かった先輩方も見習えばいいのに・・・」

「奴らはテニスしてたらいーの!私は勉強しなきゃ」





センター試験も終わり、一息つくこともなくひたすら勉強する。
想像がつかない。
どれだけ大変かってこと。
だから、少しでも息抜きになればいいなと思って買ったものを渡した。
先輩は「何これ?」と不思議そうにしていたけれど、包装を解いて中を確認する。

チョコレート。
世間一般の女性がバレンタインで騒がしくしているこの季節に、先輩は毎日勉強をしているのだ。
女性が男性にチョコを贈るというのが、日本でのバレンタインデー。
けれど、俺が贈ってみた、先輩に。
おかしい・・・か。
先輩は嬉しくない・・・か。
先輩の反応がなくて心が沈みそうになっていると、「本当にもらっていいの???」と驚きの声があがる。





「ねぇ、いいの?ゴディバだよ!高いのに!チョコレート、私、女なのに・・・」

「受験生の先輩に、差し入れです」

「ありがとう。私、何にもしてないのに・・・」

「先輩は勉強してたらいいんです。受験終わったら、また構ってください」





嬉しそうに笑顔で頷く先輩。
小粒のチョコが六つ入った小さな箱。
チョコを一つ、つまんで口に放り込んだ先輩は、この世でいちばん幸せなのは自分だと言わんばかりの表情をしていた。
そして、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「休みの日じゃないんですから」とたしなめれば、「いいじゃん、たまには」と言う。





「毎日、勉強勉強べんきょーって嫌になっちゃうけどさ、八時になったら日吉くんが迎えに来てくれるから頑張れるんだ」

「だから、明るいうちに帰ったほうがいいって言ったじゃないですか」

「遅くなっても一緒に帰れるから、図書室で勉強してるんだよ。・・・・・・ちょっとでも、一緒にいたいよ」





上目遣いでそんなことを言われれば、理性も崩壊しそうになる。
てのひらで顔を覆った。
切なくなるような、細い声でそんなことを言われても、俺には何もできることがない。
寄りかかってくる先輩のぬくもりを感じながら、何かできることを必死になって探した。
けれど、見つからなかった。
先輩はニコニコ笑っている。
今という瞬間が幸せだから?

とりあえず今は、迎えに行くことが俺にできることなんだと思う。
今できる、小さなこと。
それが先輩の支えになるのならば、俺の存在に意味ができる。
先輩が合格を決める日まで、触れそうなくらい近い距離からも、姿も見えず声も聞こえない距離からでも、応援し続けよう。









**************************************************

日吉くんが迎えに来てくれるっていうシチュエーション。
うん、迎えにきてくれるなら勉強も仕事も頑張れる!
人様のサイトできゅーんとくる日吉くんドリーム読んで即発されたけど、
私にはそんな話書けない…><

tennis dream ... ?
dream select page ... ? inserted by FC2 system