[ sweetie ]





スーパーで梨を物色していた。
形が良くて傷んでいないものを・・・。
何分居座っているのだろう、私。
ふと顔をあげれば、こちらに視線を送っている制服姿の男の子。
若だ。
完全に顔がひきつっていた。





さん・・・何してるんですか?」

「見たらわかるじゃん。梨を選定しているのですよ、若さん」

「ドン引きですよ、本当に。他にも買うものあるのでしょ?」

「梨が大好きだから、手抜きできないの!!!」





梨が大好きな私は、いつも買い物に行くと梨だけは時間をかけて選ぶ。
人参もじゃが芋も林檎もオレンジも、さくっと選んでしまうのに、梨だけは時間がかかる。
どうしてこんなに好きなんだろうな、梨が。
それにしても、若はどうしてスーパーにいるのだろう。





「ノートがなくなったから買いに来たんです。そしたら梨を物色しているさんを発見しました。
 買い物、付き合いますよ。休みの日だからたくさん買うんでしょ?」

「ご名答。買いだめしておかないと、学校帰りに買うのはしんどいもん」





我が家は両親がバリバリ働いていて、帰宅時間がだいたい夜の十時以降。
お腹を空かした弟たちもいるから、部活もやらないで主婦業するのは私の役目。
今日は珍しく母親が休日出勤だから、休日なのに主婦業代行です。
でも、おかげで若に会えたからよかった。
こんな生活をしていると、なかなか彼氏といえど会えない。

そんな生活をしていたら、きっと若に逃げられちゃうだろうな。
でも、お腹を空かせた弟たちを見捨てることはできない。
姉に生まれた宿命だ。

カートに乗せたカゴは、買いたい物であふれかえる。
高い位置にある物は、若に取ってもらう。
背が高い人っていいな。
私は背伸びしても届かないのに、若は軽く手を伸ばせば取れるのだから。

会計を済ませて、エコバックにつめこんだ荷物を持ち帰る。
若は荷物持ちになってくれる。
たくさん買ったのに、荷物が重たくない。
頼りになるな、男の子って。
私はひとりでニヤニヤしながら荷物を片手にまとめて、空いた片方の腕を若の腕に絡ませた。
「ちょっとさんっ」と焦った若の声が聞こえるけれど、聞こえないフリをする。
たまには甘えたくなるよ。姉ばっかり演じるのは疲れるから。






「若」

「何ですか?」

「好き」

「・・・どういう返事を求めてるんですか?」

「ご自由に」





しばらく考えたような間を見せて、若は「俺もさんが大好きですよ」と答えてくれた。
「好き」に「大」がついていることに驚いた私は、なぜか笑ってしまった。
失礼なのは百も承知だけれど。
私の好きなようにさせてくれるところが、若の私に対する愛情のような気がする。
甘やかせてくれているのだ。
ずっとそんなことをしていたら疲れると思う。私がそうだから。
どうしたら、いいのかな。

「あー、その・・・」歯切れの悪い若の声。
高い位置にある若の顔を見れば、空を見上げて私から目を逸らしている。
さんが作ったご飯、食べてみたいです」と恥ずかしがりながら言う若。
そういえば、若に手料理を食べさせたことなかったな。
私は二つ返事で若を家に招待した。
ついでに、手のかかる弟たちの遊び相手になってもらおう。

結局、私は若を甘やかすことができていない。
がっくりと肩を落とした。









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「姉」がテーマ。
実際、私も上に兄姉がいない環境なので、甘えられないというか。
梨がすきなのは私です、スミマセン。
でもさくっと選びますよ、時間がもったいないから。

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