[ リ・スタート ]





おもいきり派手に空振りした。
テニスボールは後ろへ転がって壁にぶつかり反射した。
失速したボールが俺の足元に戻ってくる。
空振りなんて滅多にしない。
「派手にやらかしたなぁ」と忍足さんが呟いていた。

気合が足りないのはわかっている。
けれど、どうしたらいいのかわからない。
大きく息を吸って吐き出す。
いつも俺は冷静でいるつもりだけれど、きっとどこかで冷静になりきれていないのかもしれない。

さっき、が部長に絡まれていたのを見たからだ。

は部長から肩を抱かれて振り払っていた。
何なんだ、あの手を出すのが早い部長は。





今日の日直は俺と
珍しいこともあるもんだ。
日誌を書くのはの担当。けれど、放課後に教師から呼び出されていて、最後の部分がまだ書いてなかった。
俺は掃除の終わった静かな教室で続きを書く。

「先生、話すの長すぎっ」
ご立腹のが職員室から戻ってきた。
「日吉くんのところの、あの部長さんもしつこすぎっ」
また部長に絡まれたらしい。そんなこと、俺に言われても。
「ごめんね、続き書いてくれて」
申し訳なさそうな表情で俺に謝る
そんなことはない。日直の仕事をするのは当然のことだから。
「最近、元気ないよね、日吉くん」
驚いて、俺は手を止めを見た。
座っている俺は、立ったままのを見上げる形になる。





「ほら、私、美術部だから美術室からテニスコートがよく見えるんだよね。
 日吉くんの姿もよく見えるんだけど、なんだかいつもと比べて元気ないなーって思ったの」

「そうか?なら、そうなのかもな」

「部長さんに聞いても『知らねぇ』って言われるし、あれ以来絡まれるし」

「部長には今度言っておくよ」

「レギュラー落ち、しないよね?」





落ちてたまるか。
このまま上を目指すんだ。
を不安にさせないように。





「よし、じゃあ今度の公式戦で買ったら日吉くんのためにケーキを焼いてあげるよ」

「俺に?」

「あ、ケーキとか苦手?だったら別のもののほうがいい?
 日吉くんの頑張ってる姿見てると、私もがんばらなくちゃーって思うんだ。だからそのお礼だよ」





ケーキよりもの方がほしいけどな。
そんなこと言ったら、「ドン引きー」て言って頬を膨らませて不満の感情を出すんだろうな。
の表情は手に取るようにわかってしまう。
どれだけ見てきたんだろう。どれだけ見つめていたんだろう。
の応援をムダにはしない。
気持ちを入れかえよう。









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最後の「ケーキよりも・・・の方がほしいけどな」
っていうのが書きたいがために。笑

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