[ ホ ワ イ ト バ レ ン タ イ ン ]





忙しいくらいに嫉妬してる。

どうしてわかは私のことだけ見てくれないのだろう。
当然、そんなことはムリだってわかってる。
けれど、欲張ってしまう。
彼女という立場を得たら、どんどん欲張りになってわがままになる。
わかが私を甘やかすからだ。
少しは厳しくすればいいのに。
優しいだけじゃダメなんだ。
厳しさも愛情のうち。
ねぇ、私を叱って。

夕方のテニスコート。
わかはマネージャーの女の子と仲良く話している。
私はテニスコートの側でひとりぼっち、わかを待っている。
私の視線に気づかないのだろうか。
気づいてよ。

凍えそうな風が吹く。
黒のイーストボーイのバッグに雪が張り付く。
雪が降ってきた。
傘もない。
紙袋の中のお菓子は、寒さに死んでしまうのじゃないだろうか。
思考回路まで狂ったようだ。
私はバカだ。
ただ、わかを待っているだけでおかしくなってしまった。

早く会いたい。

さっきまでわかと楽しそうに話していた女の子が、私の前を通り過ぎた。
キッとにらんだけれど、彼女は気づいていなかった。
私のことなんて見えていなかったのだ。
彼女が駆けていった先には、傘をさした男の子が待っていた。
彼氏がいたんだ。
彼女は男の子の腕に自分の腕を絡ませて、歩いていった。
私はテニスコートを見る。
雪が少し積もり始めた。
傘をさしていない私の身体も、うっすら白に染まっている。
寒い。
屋根のあるところに避難しようか。
けれど、その必要はなかった。
わかが傘を持って部室から出てきた。





!!傘もささないでこんなところに・・・」

「傘、忘れたんだもん。わか、遅いんだもん」

「ごめん、待たせて。早く、帰ろう」

「うん」





今日がバレンタインデーなんだとか、私が持っているお菓子は手作りなんだとか、そういうことには一切触れようとしない。
本当はもっと構って欲しい。けれど、わかがそういう性格じゃないってわかっている。
冷たいようで、本当は私のことを想っているはず。
ただ、実感としてつかめないから、頭の悪い私は困惑する。
叱ってくれれば、私のことを想ってくれてると実感できる。

けれど、本当にそれで実感できるのだろうか。
わからない。
ただ、今までにない経験を積みたい。

黙ったまま、紙袋をわかに差し出した。
バレンタインの手作りマフィンが入った紙袋。
受け取って「ありがとう」と言うわか。





「手作り?」

「もちろん。毒味はしてます」

「毒なんていれないだろ」

「入れてたらどうする?」

がいれたのなら、毒にあたってもいいよ」





ドキっとした。
私のすることは受け入れられるということだろうか。
そんなことまで受け入れて欲しくないよ。
そこは「が毒をいれるわけないよ」って言うところじゃないの?
わかは少しズレてるよ。
私も、少しズレている。

わかは手で私の制服やかばんについた雪をはらっていく。
わかの優しさに触れる。
優しさに甘えていたらいいのだろうか。
私は流されていたらいいのだろうか。
わからなくなる。
見えなくなる、何もかもが。

は真面目に考えすぎなんだよ」とわかが言った。
そうなのかもしれない。
嫉妬するのも、欲張るのも、わがままなのも、普通のことなんだ。
だから、わかはそんな私を普通に扱ってきた。
それだけのことかもしれない。
わかの中で、叱るレベルまで達してないんだ。

気づけば、わかは傘をさしたまま、片手でマフィンの包みを解こうとして悪戦苦闘していた。
私はわかの手からマフィンをとる。
包みを解いてわかの口に運んでやる。
しばらく噛んだあと、わかは「おいしい」と言うのだ。
それだけで、満たされる。

相合傘。微妙な距離。
わかが傘を掴む手に、私の手を重ねてみた。
ぐっと距離を縮める。
まだ、うまくやっていけるはず。
叱られるまで、何度だってわかに挑戦する。
わかのことが好きなことに変わりないから。
わかが私のこと以外見えなくなるまで磨き続けるよ。





ハッピーホワイトバレンタイン。









**************************************************

バレンタインデーに紙袋を提げた男性を見ると、もらったんだなーとか。
紙袋を持っている女性を見ると、これからあげるんだろうなーとか。
そんなふうに思います。
高校時代、スクールバッグといえばイーストボーイだったんですけど、
今はどうなんですかね。5年以上前だもんなぁ・・・。

tennis dream ... ?
dream select page ... ?

inserted by FC2 system