[ ハ ッ ピ ー デ イ ズ ]





デザートを食べているときがいちばん幸せだ。

珍しく今日の部活は午後からだから、私はコンビニでプリンを買って学校へ来た。
休日の学校はなんだか冷たい空気が漂っている。
今日のお弁当のおかずはなんだろう、そんなことを思うことで少しでも空気を温めようとしてみた。
全く温まらなくて苦笑した。
空を見上げた。
校舎の開いた窓から身を乗り出して手を振る人間が一名。
ー!!!早くご飯食べよーよ」と大声で叫ぶ友人。
私は大きく手を振り、走って後者の中へ入った。

階段を一段飛ばしで駆け上がる。
目の前に飛び出してきた人影に気づいたけれど、勢いづいていた私は止まれない。
そう、私は黄色のMARCH。車は急に止まれない。
勢いよく、飛び出してきた人とぶつかってしまった。
手に提げていたランチバッグとプリンは、勢いよく転がっていく。





「ごめんなさいっ、ごめんなさい。ほんっとーに、ごめんなさい」

「あ、ごめん。俺も気づかなくて」

「ひ、日吉くん???」





私が衝突したのはベンツの四駆!!
日吉くんとぶつかってしまった。
私はお弁当のことも、プリンのことも忘れて、ただひたすら頭を下げて謝った。
日吉くんは私の様相に困っていたみたいだから、私は最後に深々とおじぎしてお弁当とプリンを回収した。
とぼとぼと教室へ向かう。
扉を開けば、友人達がランチタイムの準備をしていた。
そして、私の疲れた顔を見て大笑いするのだ。
私の謝罪の言葉は、教室まで丸聞こえだったらしい。
恥ずかしいったらありゃしない。





「ありえないー、日吉くんとぶつかっちゃうなんて。恥ずかしすぎるっ」

はドジだからねぇ。ランチタイムが待ち遠しかったんでしょ?」

「うんうんうん!だってプリン買ってきたもーん」





大転倒したから、プリンは無事じゃなかった。
くずれてぐちゃぐちゃ。
でも、中身は流出していないから大丈夫。
お弁当を食べて、くずれたプリンを食べて、私は幸せだ。

「こんにちはー」と、元気な後輩たちの声。
もうすぐ部活の始まる時間。
片づけをして、私はトランペットをケースから取り出す。
金色に輝く相棒は、一段と元気そうに見えた。

ベンツの四駆と接触事故を起こしたら、タダでは済まないなぁと考え事をする。
浮かれて一段飛ばしで階段を上るんじゃなかった。
ちゃんと、前を向いて歩かないと、犬だって電柱にもぶつかってしまうんだ。
上の空で、真っ赤な空を見ていた。
部活も解散になった。
ひとりでトランペットを吹いても、なんだかむなしかった。

おもいっきりトランペットを吹いた。
息が続かなくなるまで、長く長く。
息が切れて、吹き口を離した。
大きく息を吸った。
少し、気分がすっきりした。
ガラガラと音を立てて教室の扉が開く。
夕日のまぶしさに目を細める君は誰?





、まだ残ってたのか?」

「あ、うん。なんか、モヤモヤしちゃって。日吉くんは?」

「忘れ物があって。それと・・・」

「それと?」





日吉くんが見せてくれたものは、コンビニの袋。
中身はよく見えない。
日吉くんは、私の隣の席に腰掛けて、袋の中身を1つ、私の前に差し出す。
コンビニの100円シュークリーム。
私はきょとんとする。
これをくれるというのだろうか。

「あげるよ、それ」と言って、日吉くんはもう1つのシュークリームを食べ始める。
夕方の教室、私と日吉くんのふたりだけ。
ふたりで食べるシュークリーム。シュークリームは同じ味。
誰とどこで食べようと、デザートを食べているときがいちばん幸せだ。
「おいしい、ありがとう」と日吉くんにお礼を言った。
逆にお礼を言われる私は、何をした?





「いつも、がデザートをおいしそうに食べているのを見ていたら、俺も食べてみたくなってさ」

「え、そうなの?日吉くんは甘いものとか苦手そうだけど・・・」

「そうでもないよ。けっこう好き。和菓子とかのほうが好きだけど。
 ・・・がデザートを食べているときは、いつも幸せそうな顔してるからな」





日吉くんがデザートを食べているときの方が、いい笑顔だと思う。
笑った日吉くんなんて初めて見た。
私だけが知ってる秘密の顔なのかな?
少しだけ、優越感に浸って、私はシュークリームを食べた。









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女ふたりで飲み会の度にデザート食べていたら、男友達が感染しました。笑
女のチカラってすげー(・・・違うと思う)
日吉くんは、ヒロインちゃんが好きでいつも見ていて、
いつの間にか感染していたっていう、補足。


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