[ give and take ]





気づいたら、目で追っているんだ。
髪を耳にかけるときに必ず目を伏せることも、笑顔になる前に目を大きく開くことも、知っている。
卵焼きが好物だということも、午後の紅茶はミルクしか飲まないことも、知っている。
あぁ、知っていることを並べるなんて、ただのバカだ。
俺をそんなふうにさせてしまうくらい、強い存在。

「いる?」と俺をじっと見て尋ねる
手には新作のチョコレート。
遠慮せずに1つ頂いた。
口の中はチョコレートの甘い香りでいっぱい。
隣の席のは、俺と同じようにチョコレートを口に運んでいた。
「んー、おいし」と呟くの表情は、「今にも溶けてしまいそうです」と言っている。
見ていて幸せだ。

もっと話したいとか、もっと一緒にいたいとか、触れてみたい、優しくされたいとか、思うことは多くなる。
欲なんてそんなもんだ。
少しでいいから、二人の世界を作りたい。
暗くなった帰り道、星が煌き始めて思うんだ。
「おつかれー」と、自転車に乗った人が俺の隣に止まって言う。
だった。
吹奏楽部のは、コンクール前で遅くまで練習しているらしい。





「もう夜。早いよねー。もっと時間が欲しい」

「何に使うの?」

「うーん、お金ないからバイトしたいし、遊びたいし、寝たい。日吉くんは欲しくないの?」

「そうだな、たまには休みたい、かもな」

「だよねー、もっと高校生活をエンジョイしたい!ステキな彼氏さんがいればいいのに」





どこか遠くを見て言った
好きな人がいないから言えることなのか、特定の好きな人がいるから言えることなのか、見当もつかない。
「ねーねー、日吉くんはステキな彼女がいればいいのにって思わないの?」なんて言われたら、どう対処したらよいかわからない。
まっすぐこちらを見る目は、裏もなく透き通っているようだ。
困り果てて「別に」と言えば、「そっかー」とがっかりした声が聞こえた。
どういう返事が欲しかったんだ?
俺の何がを満たす?

俺には、彼女という存在より、という存在の方が大切だ。
こちらを振りむこうが、どこか違う方向を向いてようが、そんなものは関係ない。
今まで通り、話を聞いたり、一緒に笑ってくれればいい。
そう、俺のことを構ってくれればいい。
そんなことを思って入れば、のとんでもない一言で雷でも落ちたかのような轟音が聞こえた。





「あたしはー、日吉くんにー、優しくしてほしいんだけど」

「俺に?」

「だって日吉くんのこと好きなんだもん。優しくしてー」





呆れるような発言、でも素直に嬉しい。
嬉しくて、声をあげて笑ってしまった。
きょとんとして間抜け面のを真っ直ぐ見て言ったんだ。
「俺も、に、優しくしてほしいんだけど」
は驚いていたけれど、いつの間にか俺と同じように笑っていた。









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日吉くんに、「優しくしてほしいんだけど」って言わせたかった。
だけです、本当に。

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