[ ポ テ ト プ リ ー ズ ]





「えー、今起きたの?」

「ごめんごめん、だからあと1時間かかる。待っててくれる?それともやめる?」





約束の時間になっても待ち合わせ場所に現れない友人。
久しぶりの約束だから楽しみにしていた。
今更やめるなんてとんでもない。
友人が来るまで1時間の暇つぶし。
のどが渇いたから近くにあったファーストフード店に入った。
昼を過ぎたのに客席は人でいっぱい。
私は空いた席でミルクティーを飲んでいた。
あとは友人が来るまで人間観察をするだけだ。

ぼーっとしているとスポーツバックを提げた男の子が現れた。
満席の客席。
きょろきょろ見渡しても席は空かない。
私はアイスティーを外で飲んで、その子に席を譲ろうかと思った。
なんだかその男の子に顔を見られているなと感じ、にらみつけてやろうと顔を上げるとそこには日吉くんがいた。
私は驚いて大声をあげそうになり、慌てて口を手で押さえる。





「日吉くん!どうしてここに?」

「先輩と待ち合わせしてるんだけれど、遅れるって」

「私もおんなじ。友達が寝坊しちゃって1時間待ちぼうけなの。空いてるから座っていいよ」





私は向かいの椅子を指差して、日吉くんを座らせた。
座らせてから、とんでもないことをしてしまったと気づく。
日吉くんと向かい合わせに座っている。
日吉くんが目の前にいる。
何を話せばいいかわからない。
ドキドキしている間に、日吉くんは注文をしに席を離れた。
緊張の糸が緩む。
制服姿の日吉くん。
いつもどおりなのに、いつもより大人びて見えた。

日吉くんに会うことは想定していなかったから、私は普通の格好。
ジーンズにラグランシャツ。ラフな格好だ。
ミルクティーに入っている氷がぶつかりあい、しゃらしゃらと音を立てる。
いつの間にか、目の前で無表情な日吉くんがハンバーガーを食べていた。
緊張する。





は、これからどっか行くの?」

「へっ?・・・あー、うん、買い物に行く約束してたんだけどね」

「ふーん。春だから?」

「あ、うん。春物買いに行こうと思って。気分転換に」





意外な返事だ。
もちろん、質問してきたのは日吉くんだけれど、日吉くんが「春だから?」なんて言うとは思わなかった。
日吉くんは他人に興味がないような気がしていたけれど、それは違うのかなと思い直すことにした。
「いる?」と尋ねられてきょとんとしていると、日吉くんはポテトを1本つまんで私の目の前に出す。
ポテトをもらおうとして手を伸ばしたら、日吉くんは私の口元まで強引にポテトを寄せて私に食べさせる。
ポテトはあつあつでおいしかった。
それ以上に、日吉くんにポテトを食べさせてもらったことで、私は顔から火が出そうだ。
そんな私を見て、日吉くんはくすりと小さく笑った。
日吉くんに笑われた。
むっとした表情を見せても、日吉くんは謝ろうとせずに微笑んでいた。
なんだろう、これは。
日吉くんが私に微笑んでいるなんて。

そんないいシチュエーションのときに限って邪魔は入るものだ。
友人から到着を知らせるメールが入った。
私は「友達来たからもう行くね」と言って立ち上がる。
ミルクティーを飲み干して、ぱっとひらめいたことはただひとつ。
日吉くんのポテトを1本つまんで、日吉くんに食べさせる。
お返しだ。
面食らっている日吉くんを放って、私は店を出た。
友人が大きく手を振っていた。
全面ガラス張りの店を振り返る。
日吉くんが軽く手を挙げて、私に合図していた。
私は笑顔で手を振る。

「誰かいたの?」と尋ねる友人。
「うん」と答えた私は、なんだか幸せいっぱい。









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はい、幸せいっぱいヒロインちゃん。


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