[ 泥 だ ら け ハ イ ス ク ー ル ]





女の叫び声が聞こえて、驚いた俺は声がしたほうへ急いだ。
悪いことが起きていなければいいのだけれど。
体育館の裏。雨上がりの学校。
大きな水溜りの上に、泥だらけの女がいる。
制服はびしょぬれ。白いブラウスは茶色く染まった。
スカートのすそから泥水がたれ、ひざも黒く汚れていた。
俺に気づいて、彼女は顔をあげる。
そして、また悲鳴をあげるのだ。





「やだー、日吉くんっ」

?どうしてこんなところで転ぶんだ。しかも水溜りにはまってるし」

「私が聞きたいよ!ほんとに、何やってんだか」





泥だらけでびしょぬれのまま校内をうろうろできるわけがない。
手首を掴んで、とりあえず部室まで連れて行った。
タオルとジャージを渡してシャワー室に閉じ込める。
わめいていただったけれど、最後にはおとなしく「ありがとう」と感謝の言葉を述べていた。

テスト前の放課後。
部活のないテニスコート。
自主練習をする部員達。
二人だけの部室。
来週提出の数学の課題をテーブルの上に広げてみた。
右手にシャープペンシルを握っても、芯は減らなかった。

落ち着かない。

1問でいいから解こうと決心し、基礎の問題に目をやる。
文章を読む。
値を代入して計算すればいい。

ノートに黒い文字が浮き出る。
消しゴムで消す。
定規で線を引く。
図を描いたら記号を書き入れる。
単純作業。

「あ、ありがとう、ございました」
顔を上げると、髪が濡れてぺしゃんこのがいた。
泥のかかった顔もきれいになって、頬は赤く染まっていた。
俺のジャージはには大きい。
だぼだぼのジャージをひきずって歩くは、とてもかわいらしかった。
ドライヤーを渡すと、は鏡を見ながら髪を乾かす。
黒い髪がなびくのを眺めていた。
心が跳ねる。

コンセントからコードを抜く仕草や、引き出しにドライヤーをしまうためにしゃがんだり立ったりする動きを見ているだけで、
会話をする以上に相手のことをわかった気になる。
何気ない言葉に惹きつけられる。





「宿題やってるの?えらいねー」

「暇だったしな」

「ごめん、ほんとごめんね。私があんなところで転んだりしなかったら、日吉くんの時間をとらせることもなかったのに」





申し訳なさそうな顔をする
が悪いわけじゃない。
ノートに目をやる。
顔を上げる。
目が合う。
視線は絡まりあう?
テーブルに添えるように載せられたの手の上に、自分の手を重ねた。
反射的には手をひっこめる。
嫌われたかな、そう思いつつ自分の手をひこうとした。
恐る恐る、の手がそっと俺の手に重ねられた。
顔を見れば、少し緊張しているようだった。
俺が少し笑うと、緊張の糸が切れたようで、笑ってくれた。









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わー、ありえない光景だよ。

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