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珍しくがニコニコ笑っているものだから、俺までつられて気分はよくなる。
気味悪いくらいニコニコ笑っている。一体、何があった?
尋ねても「なんか、嬉しいの」と意味のわからない返事しかない。
恋人という、世間一般では相手のいろんな面を知っている立場の人間なのに、こればかりはさっぱりわからない。

何も話さないのにニコニコ。
動き回らないのにニコニコ。
が笑顔なのは、俺にとって嬉しいこと。
けれど、ここまでニコニコされると、本当に気味悪い。





「わかと一緒にいられるのが、すっごく嬉しいのかもね」

「・・・そう?」





気味悪いニコニコのまま、は俺を見て言ったのだ。
考えてみれば、一緒にいられる時間がここ数ヶ月なかったから、当然と言えば当然だけれど。
触れたりしないで、ただ一緒にいるだけで、そんなに嬉しくなれるものなのかと疑問に思う。
を肩を抱き寄せると、甘いの匂いがする。
すると、はニコニコをやめるのだ。
そして、目をつむる。

俺の部屋。
小さなテーブルの上に置かれた、クッキーと紅茶。
が珍しく焼いたクッキーは、チョコチップでデコレーションがされている、クマの顔。
食べるのがもったいない。
けれど、食べてしまうのが人間だ。
1枚つかんで口に運ぶ。
甘い甘い味。
「うまい」と呟けば、はぴくんと反応する。
顔を合わせて、俺はもう1枚クッキーをつかむ。
それをの口に運ぶ。
食べ終えた後、「よかった、おいしいって言ってもらえて」と言うのだ。

ここは俺の部屋で。
ここにいるのは俺とだけで。
いつもと違うのは、がいるということと、お菓子があるということと、
が妙に笑っていることと、甘い雰囲気に持ってくるとおとなしくなると言うことと。

あぁ、そうか。
は淋しかったんだ。
だから、俺といる時間を大切にしているんだ。
ニコニコ笑っているのも、今まで一緒にいなかった分、笑っておこうと。
お菓子を作ったのも、俺に渡すチャンスが今日くらいしかないから。
そんな簡単なこともわからず、気味悪いとばかり思っていた俺はどうかしてる。





「ごめん、淋しかったんだろ」

「うん、そうね。・・・でも、もういいの、こうして一緒にいられるんだもん」





は手を伸ばしてクッキーを1枚つかむ。
そして、俺の口へと運ぶのだ。
甘い甘い味。
甘い時間が溶けてゆく。









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笑顔すぎる人は、やっぱりちょっと怖いですね。
疲れるんじゃないかって思ってしまいます。

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