[ ピ ン と 張 っ た 糸 ]





「ひーよーしーくんっ」
声を掛けられ振り返ると、先輩がいた。
テスト前で部活のない日。
掃除当番にも当たってないから、ホームルームが終わるとすぐに学校を飛び出した。
家に帰ったら数学の宿題をやらないと、とか、英語の予習もやらないと、とか、いろいろ考えていた。
そしたら能天気なと言えば失礼だけれど、そんな声が聞えて。
その声の主は先輩だから、ため息をつくどころか内心嬉しかった。顔には出さないけれど。

にこにこ笑って先輩は俺の隣に並ぶ。
俺の気も知らないで、笑っている。
俺の心臓は跳ね上がって、今にも口から飛び出そうなのに、先輩はそんなことお構いなしで歩き出す。

先輩とはまともに話したことはないけれど、正レギュラ−のマネージャーだから先輩達と話している姿は何度も見ている。
いつの間にか惚れこんでいて、いつかたくさん話をしたいとか、一緒にどこかへ出かけたいとか、そんなことを思っていた。
思うだけで、現実のものになるとは・・・予想しないことだ。
先輩は、俺にいろんな話を振る。
テストのこと、部活のこと、家にいるときのこと。
それに対してたくさんあいづちを打ってくれるし、話を膨らませてくれる。
俺から話を振らないから、会話を途切れさせないように一生懸命なのだろう。
それでも、俺には話を振る力はない。
情けない。何か、何か話題はないかと、先輩の言葉を聞きながら考える。





「あー、なんか私ばっか話してる?迷惑だよね、こんなおしゃべりな子」

「そんなことないですよ。助かります。俺、話すの苦手ですから」

「そう?私は日吉くんの話聞きたいんだけどなー」





先輩はずっとにこにこ笑っている。
何がおかしい?俺がおかしい?
おかしい俺を見ているのが楽しい?
周りの現象が素直に受け入れられないのは、どうしてだろう。
好きな人のことを受け入れたいと思えないのは、愛が足りないから?

「まぁいいや。でね、鳳くんがさー」先輩は話を続ける。
あぁ、やっと、受け入れられない理由がわかった。
話題に、俺じゃない男があがるからだ。
俺と先輩、共通点はテニス部という部活だけ。
仕方がない。
趣味の話なんてしたことないから。

俺のことだけ見てよ、なんて言えない。
俺のこと好きになってよ、なんて言えない。
怖くて言えない。見離されるのが怖いから。

トンと、一瞬隣を歩く先輩と手がぶつかった。
手のひらがほんの一瞬触れただけなのに、何分間も触れていたような間隔に陥った。
「あ、ごめん」と先輩は俺に謝る。
俺も謝ろうとしたけれど、どもってしまった。





「あ、ぎょ、ごめんなさい」

「えー、なんでどもっちゃうの?」

「緊張してるんです」

「なんで?」

先輩がいるからです」

「それなら、私だって緊張してる。日吉くんがいるんだもの」





ぎょっとして先輩を見ると、少し顔を赤らめて笑っていた。
なんだ、お互い緊張しているのか。
そう思うと、少し気が楽になる。

しばらくして、広い交差点に出た。
「私、こっちだけど」と先輩は俺の進行方向とは別の道を指す。
あぁ、ここでお別れだ。
「俺はあっちです」と指差すと、先輩は残念そうな顔をしていた。

ひとりになってゆっくり考え事をする。
まて、さっき先輩は何と言った?





『私だって緊張してる。日吉くんがいるんだもの』





俺がいるとどうして緊張するのか。
俺は好きな人と一緒にいたから緊張していた。
先輩も、同じだとしたら・・・・・・。
まさか、と思いながら歩く。
けれど、そうだとしたら、かなり嬉しいな。









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中途半端なお話でスミマセン。
日吉くんは、「ごめんなさい」でどもったりしないか。

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