[ full of STRAIGHT TEA ]





ずっと一緒にいられるなんて思っていないよ。
けれど、少しでも長く一緒にいたいと思っている。
幸せを、少しでも多く溜めておきたい。
心を、満たしておきたい。





「一緒にいても満たされないなんて病気だよね」
「それは俺に対する嫌味?」
「違うよ、違う。景吾と一緒にいられて幸せだよ!」
は信用ならねぇからな」
「ちょっと!恋人を信用しないなんてサイテー」
「そんな男を恋人にしたのは誰だよ」
「そんな女を恋人にしたのは景吾だよ?」





景吾が笑った。
私もつられて笑う。
とても、幸せな時間だ。
マグカップに紅茶を注ぐ。
景吾はコーヒーが好きだけれど、私の家では紅茶を飲んでくれる。
心はマグカップ状になっていて、いつでも注ぐことができるけれど、いつでも傾いてこぼれてしまう。
ぼっとしていて、私はマグカップから溢れるほどに紅茶を注いでしまった。
慌てて布巾でテーブルを拭く。
景吾は笑って、おっちょこちょいな私の額を指でツンと突いた。
また、私は笑った。
マグカップの紅茶は溢れてこぼれたけれど、私の心のカップから紅茶はこぼれない。

恋人と、自分の部屋で、紅茶を飲みながら、お菓子を食べながら、とりとめもないことを語りあう。
愛なんて語らなくても、十分幸せ。
景吾と一緒にいて、満たされないことはないんだよ。

ソファに体を沈め、私は紅茶を飲む。
隣にいる景吾とは、触れるか触れないかの距離。
だから、その距離を縮めた。
景吾にもたれかかる。
すると、景吾の腕が肩にまわされた。
人のぬくもりって、どうしてこんなに温かいのだろう。






「ん?」
「いや、なんでもない」
「珍しいね、景吾が口を濁すなんて」
がいるからな、気が緩んでる」





景吾も、きっと人のぬくもりに満たされて緩んでいるんだ。
それが、私のぬくもりだと思うと、嬉しくて顔の筋肉が緩んでしまう。
だらしなく笑っていると、景吾に頬を軽くつねられた。
むっとすれば、景吾からのキスが降ってくる。
私は、黙ってそれを受け止める。
抵抗せずにいれば、景吾は絶対に調子に乗ってくるから、適当なところで私は景吾の目の前に掌をかざして『ストップ』の合図を送る。
景吾は残念そうな顔をしていた。まるで、餌をもらえず悲しんでいる子犬のよう。
だから、私は景吾の頭を優しく撫でた。
景吾は大人しくしている。

私にされるがままでいるなんて、景吾にしては珍しいことだ。
甘えてる、のかな?
景吾の体を引き寄せようとしたら、意外とあっさり私の胸に倒れこんできた。
そのまま、私の膝の上に頭を乗せる。
膝枕だ。
景吾の顔を覗き込めば、目を閉じていた。
このまま寝るのかな?
私は微笑んで、景吾の頭を撫で続ける。






「なーに?」
「こうしていると、幸せだなって思える」
「うん、私も」
「一緒にいても満たされないのは病気だな。俺は、十分満たされてる」
「でしょ!」





クスクスと景吾が小さく笑う。
私もつられて笑う。
これが幸せ。
ささやかな幸せが、またマグカップに注がれた。









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一緒にいられるささやかな幸せを描いたつもりです。
ミルクティー大好き!!!
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