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山のようにバレンタインのプレゼントをもらっても、
好きな人からのプレゼント以上に嬉しいものはないから、
こんな俺でも、からバレンタインデーにプレゼントをもらえることを楽しみにしている。

けれど、は変わり者だから、「面倒だから私からのプレゼントはなくてもいいでしょ?」と言うのだ。
何度説得してもわかってもらえない。
毎年、彼女がいるのに彼女からバレンタインのプレゼントをもらえない男は、俺くらいだろう。
そんな俺を何度も見ているから、テニス部の連中には同情される。





「跡部様跡部様って黄色い声浴びてるわりに、彼女からプレゼントもらわれへんなんてかわいそうやな、跡部様!」

「ちょっと、忍足さん。跡部さんに聞こえてますよ」

「ええねんええねん、鳳。これは覆しようのない事実やからな!跡部かて、痛感してるやろ」





忍足の発言に眉をひそめる。
けれど、反論できないから、ただ黙っているだけ。
実際、バレンタインデーが日曜日の今年は、前々日の金曜日にプレゼントを渡すのが主流でからは何ももらわなかった。
むしろ、に会ってすらいない。
バレンタインデー当日は部活で会えず、一日経った今日の放課後も未だ会えず。
避けているのか?
俺がからプレゼントをほしがっていることを知っているからこそ、避けているのだろうか。
誕生日プレゼントはくれるのにな。

部活に向けて、部室で着替える。
ロッカーの鍵につけたお守りは、が作ってくれた手作りのもの。
試合の前にもらったんだ。
なのに、どうしてバレンタインデーには何もくれない?
それほどに、製菓会社の陰謀とも言われるバレンタインデーが嫌いか?

着替え終えてテニスコートへ向かう。
フェンスの向こう側、の姿が見えた。
もう帰るのだろう。かばんを肩にかけ、他の女生徒と一緒に歩いている。
こちらをちらっと見て、笑顔をくれたけれど、そのまま帰る気らしい。
ムッとして、テニスコートの外へ出た。
ギャラリーが邪魔をして、思うようにの元へは行けなかった。
の姿は校門の向こう側へ消えていった。

部活の最中、心のわだかまりは消えてくれなかった。
どんなに強いスマッシュを決めても、わだかまりは強く残っていた。
しこりのようだ。





部活の帰り、顔をひきつらせた日吉に呼び止められた。
手渡されたものは、二センチ四方の小さな箱。
小さいけれど、きっちりリボンで飾られている。
さんから渡してきてと頼まれました」と言って、逃げるように去っていく日吉。
俺は、すぐに開けた。
中にはハート型のチョコレートが一粒。
手作りだろうか?から、俺へのプレゼント?
口を開けて放り込んだ。
味はまずまず・・・だと思った。
けれど、途中で変な味が口いっぱいに広がる。
何だ、この味?
薬?正露丸か?

即座に携帯を取り出し、へ電話した。
けれども、電源を切っているようで繋がらない。
眉間に皺を寄せて、俺は走った。
の家は、氷帝学園から徒歩圏内。
閑静な住宅街の真ん中、公園の側のの家。
の部屋から明かりがこぼれている。
チャイムを鳴らせば、の母親が出てくる。
笑顔で俺を迎え入れてくれるものだから、遠慮なくの部屋まであがる。
は、俺の来訪に驚いていた。
そして、まるで一刻前の日吉のように顔をひきつらせている。





「け、けいごさん、どうかなさいましたか?」

「さんとか付けてんじゃねーよ、このバカ。
 からチョコもらって喜んだのによ、正露丸入れるとはどういうことだ、アーン?」

「普通すぎてもおもしろくないし」

「俺のこと嫌いなのかよ?」





最後の質問は、を試すつもりで言った。
けれど、意外とが慌てたものだから、少しおかしくて笑った。





「ちがうちがうちがう!!!景吾のこと嫌いなわけないじゃん。大好きだよ、大好き、好きー!!!」

「なら、とりあえず、この口の中どうにかしてくれよ」

「お茶、もってくる」





部屋から出ようとするの腕を強く掴む。
目が合えば、そのまま強引に口付けた。
それでも口の中の苦い味も、においも消えない。
といえば、「正露丸くさい・・・」と渋い表情をしていた。
おまえのせいだろ、おまえの!

俯いてクスクス笑う
「素直になれないからね、私」と言うは、無邪気な子どものような笑顔を浮かべていた。
机の引き出しから箱を取り出して俺に渡す
そのまま、「お茶もってくるー」と言って部屋から出て行く。
俺は水色のその箱を開けた。
中にはカップケーキが入っている。
ピンクのデコペンでハートが描かれたそれは、の手作りだろう。
本当に素直じゃないな。
毎年、俺にバレンタインのプレゼントを渡したくてしょうがなかったんだろ?
カップを手にとって、一瞬ためらう。
また、中に異物が入っていないだろうか?
けれど、すぐにその考えは捨てた。
妙に確信が持てた。
この中に、そんなものは入っていない、と。

けれど、食していたら、卵の殻のようなものが出てきたから、を羽交い絞めにしたことは言うまでもない。









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学生時代に、正露丸入りチョコを作りました。笑
その後、わさび入り苺大福を食べた人がお腹を下してしまい、
「正露丸入りチョコがほしい」って言ってた。
そんな青春の日々を思い出しつつ。

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