[ 純 粋 に ]





の自然な姿を見られるのは、席が決まっている教室くらいだ。
一番後ろの席の俺と、一番前の席の
授業中、ずっとの背中を見ていた。
黒板を見上げたり、シャープペンシルを動かしてノートに写したり。
誰もがすることだけれど、の姿だけが違った色に見えた。
単純に、好きな人だから、かもしれないけれど。

休み時間になると、は後ろの席の女と楽しそうに会話する。
俺はそれを眺めるのを日課にしていた。
たいてい、忍足に邪魔されるのだけれど。





「ストーカー跡部様やん」

「うるさい」

「見てるだけやったら何にも伝わらんで。ま、百も承知やろうけど」





誰かを好きになると、つい慎重になってしまう。
周りの女の視線が気になるからだ。
俺に対する、ではなくて、彼女に対する・・・。

振り向かせたい。
けれど、振り向かなくてもいいから、なんとかして自分の想いを伝えたい。
吐き出さないと、喉に異物がつまって窒息しそうだ。
なんとも自分勝手な話だな、と自嘲した。

いつも通り授業を終えて部活に向かう。
部室に着くと、忍足向日コンビが宿題の話で盛り上がっていた。
そして、思い出す。
教室に宿題の出された教科のノートを貸したままだということに。
慌てて教室へ戻った。

机の上に、俺のノートが一冊置かれていた。
置手紙には「返すの遅くなってゴメン、ついでに今日の部活行けなくてゴメン」と男にしてはかわいらしい字で書かれていた。
ノートと置手紙を掴んで教室を出ようとして、扉のところで誰かとぶつかりそうになった。
俺の胸のあたりまでしか背丈がない女。

俺の想い人、まさにその人。





「うわ、お、ごめん、跡部くん。まさか人がいるとは思わなくて」

「こっちこそ悪かった。誰か来るとは思わなかったから」





きちんと会話をしているはずなのに、視線があやふや。
それは俺が逸らしているから?
それともが逸らしているから?
わからない。
けれど、二人の視線が絡まることはなかった。

にぶつかりそうになって置手紙を落としてしまったらしい。
しゃがんだは、それを拾って俺に渡す。
「滝くんてかわいい字なんだね」と置手紙を見た感想がから発せられる。
そして、俺の横を通って教室へ入っていった。
自分の机の中を調べている。忘れ物でもしたのだろう。

今、まさに二人きりで、いつも邪魔をする忍足は部活にいるから邪魔されることもない。
想いを伝える絶好の機会。
これを逃がせばいつ来るかわからない。
部室へ向かう足を止めた。
ユーターンして教室へ戻る。
俺の気配を感じて手を止める
初めて、目が合った気がする。





「あ、とべ、くん?」

「好きだ」

「へ?」

「俺はのことが好きなんだ。ただそれだけ」





言ったら想像以上にスッキリした。
満足して教室を出ようとした。
「あ、跡部くん!」と俺を呼び止めるの声。
振り返ると、顔を赤く染めたが俺を追いかけてきていた。

「あ、あたしも跡部くんが好きっ」思いがけない言葉に開いた口が塞がらない。
言い切ったは、天使の微笑を浮かべていた。









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ピュアな青春時代。


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