[ パ イ ン あ め ]
近くにいるのが当たり前だと思っていた。
とんだ勘違い野郎だ、俺は。
気がつけば、は隣にいる男に笑いかけていた。
あの笑顔は俺のものにはならないんだ。
「ほしいものは、きちんと手に入れなくちゃはダメ」そんな言葉を発していたのはだ。
俺は、その言葉を心の隅にしまったまま忘れていた。
今更「好きだ」と言ったところでどうにもならないんだ。
ため息をついたって、が俺の傍に駆け寄ってくることはありえない。
「お先でーす」と笑顔で生徒会室を出て行く。
その後姿を見送って、机の上に広げた書類に目を通した。
仕事ができるから、笑顔がいいから、優しいから、真面目だから、一緒にいるとやすらぐから。
好きなところを吐き出してしまえばよかった。
後悔なんていくらでもできるのに、後悔しかできない現状。
他人の幸せを邪魔するような年でもない。
大切な人の幸せを邪魔するなんてもってのほか。
吐き出せない気持ちを抱えて、今日も生徒会室を後にした。
「最近、会長元気ないですね」と去り際に掛けられた後輩の言葉にドキリとする。
内心を外に出さないよう気をつけていたつもりだけれど、今回ばかりはダメだ。
「そうだな」と素直に認めることができた。
夕焼けは世界を赤く染めている。
焼けつくようだ。
俺の心は、傷だらけで真っ赤に腫れているのだろう。
痛い。
それは、自分のせいだから仕方のないこと。
今まで、誰かを好きになって、その人を振り向かせられないことはなかった。
今回はそういかなかった。
歩きたい気分だった。
いつもは車の中から眺める景色を、自分の足で歩いて眺めた。
買い出しのときに教えてもらった近くの公園。
がお気に入りだと言っていた、ゾウの滑り台。
氷帝の制服姿の女が、その上に立っていた。
風に髪がなびいいている。
「あーとーべーくんっ」
「何やってんだ、」
「カレシ待ちー」
「あーはいはい、待ってろそこで」
「えー、淋しいじゃん」
は滑り台から降り、ポケットからパインあめをとりだし俺に渡す。
黄色い飴玉。真ん中に穴が空いている。
「最近、元気ないじゃん。甘いもの、食べたら少しは元気になれるよ」
笑顔で俺の傷口をえぐる。そんなこと、には関係ないことだもんな。
面倒だから触れないのだろうか。
女は大抵、元気がない理由を尋ねてくる。はそれをしない。
そういうところが気楽だった。
類稀なる存在。
いつか、以上の人に出会えるだろうか。
そんなこと、今はわからない。
未来に希望は持てない。
絶望から救ってくれたのは、黄色いパインあめ。
なつかしい味に、心が落ち着いた。
失恋も、経験のうち。
生まれ変わって、また同じ人間としてこの世に存在したならば、君を好きになるだろう。
今度は、絶対振り向かせてやる。
「あ、なんかちょっと元気になった?跡部くんらしくなったね」
夕焼けに負けないくらい、いい色をしたの笑顔。
俺らしさ、よくわからないけれど、これでいつもどおりになったんだ。
明日から、周りに負けないように、一生懸命やるだけ。
「サンキュー」
お礼を素直に言えた。
遠くから男が来るのが見えた。
俺との会話は、の時間つぶしになっただろうか。
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こういうのが書きたかったわけではなく、
なんとなくこうなってしまいました。
パインあめ、大好きです。
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