[ weekly chart ]





「うわー、あーでもー、うーん・・・・・・やっぱり、いや、うん、えーっと」

、もういい」

「ダメ!絶対ダメ。景吾と一緒に行く」





悩んだ果てに、俺が誘いを断ればすんなり受け入れるのだ。
困った奴だ。
映画のチケットをもらったから、をデートに誘った。
けれど、はその映画を友達と見る約束をしていた。
「さあ、どうする?」と問えば、は悩み苦しみ、結局俺と行くことに決めた。
映画なんて何度でも見ればいいのだ。
「もう1回友達と見て、復習するよー」と先程まで悩んでいたのが嘘のように、すがすがしい晴れた青空のような笑顔を見せている。
俺に関して、は単純だ。ノーとは言わない。言えないのかもしれない。

「ちょっと景吾に近づいたでしょ?」そんなことを言うは、ヒールの高いブーツを履いている。
いつ転ぶかヒヤヒヤしながら一緒に歩くのは身体に悪い。
安定しない足取りのに手を差し出せば、喜んで飛びついてきた。
つまづいても、俺が手を引いているから地面にダイブすることはない。
映画館に着けば、まずポップコーンを買うのがのパターン。
ポップコーンを手にしたは、満面の笑みを浮かべている。
今のを喜ばせられるのは、ポップコーンだけなんだ。

ポップコーンに嫉妬するなんて、バカな話だ。

映画なんてどうでもよかった。
と一緒にいられる時間を作る口実になっただけ。
俺の隣で涙を流しながら映画を見るは、俺のことなどお構いなし。
繋いだ手から伝わる体温は、ホンモノだろうか。
反対側の手ですくったの涙は、ホンモノだろうか。
に関して、自信がなくなる。
の世界に、俺の存在はどうあるのだろう。

洒落た店でのランチタイムも、と手を繋いで歩く繁華街も、何もかも不必要に見えた。
俺にとって必要なことは、にとって必要じゃないんだ。
にとって必要でないなら、俺にとっても必要じゃないのかもしれない。
の手を離したら、は立ち止まった。





「景吾・・・どうしたの?今日は気分じゃない?」

「いつもどおりだろ?」

「全然違うよ。私だけはしゃいで、景吾は全然嬉しくなさそうにしてる」

「気のせいだ」

「今日の景吾は、氷みたいに冷たいよ」





浮かない顔では歩き始めた。
の笑顔が消えたのは俺のせいだ。
慌てて追いかけたけれど、掛ける言葉がない。
何と言えばいい?
の背中を目の前にして立ち止まった。
のことは信頼している。
じゃあどうして、今の時間がにとって必要でないと言えるのだろう。
わからない。

「景吾、今日はもうここでお別れしよ。景吾が楽しくないのなら、私も楽しくないよ」
冷たい声が掛けられた。
こうなるとは思いもしなかった。
チケットをもらったときはと一緒にいられる時間ができて嬉しかった。
それをに伝えた時、は笑顔でいてくれたし、ポップコーンを手にしているときも笑顔だった。

は俺の弱点だ。
の笑顔がなければ俺は弱るし、どうやったら笑顔を見せてくれるのかわからない。
小さくなっていくの姿を見送って、俺は振り返る。
目の前に、の姿は見えない。
歩みを進めた。
急に、ぐっと後ろへ力がかかって倒れそうになり踏ん張った。
俺の左腕を掴むのは、の手。





「本当に帰っちゃうの?ここままお別れなんて嫌だよ」

・・・」

「景吾がこれでいいんだったら・・・ひとりで帰る」

「・・・俺も、嫌だな。このまま帰るのは」

「本当?」





頷くと、は笑顔を見せてくれた。
「ごめん」と謝れば、はきょとんとしていた。
もう一度、手を繋いで歩く。
「私の弱点は景吾だもん。景吾が楽しくなさそうにしていたら、辛いの」
の言葉は、かみ締めなければいけないな。
誘っておいてを満足させることができなかったのは、俺の力量がないから。
もっと精進しないと。









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「弱点」ってのが浮かんで、ぱーっと明るいバカな話にするつもりが、
こんな路線に・・・いつもどおりですね。

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