[ イ ン サ イ ド ミ ー ]





「手を繋いでいればその気になれる」と言われた。
だからと手を繋いでいる?
違う。違うはず。
好きだから、手を繋ぐ。繋がっていたいと願う。
本当にそうだろうか。
少しだけ、手を繋ぐのが義務になっているような気がした。





映画が見たいというの要望に応えて、今日は映画館へ行く。
休日の繁華街は人であふれかえる。
はぐれないように手を繋ぐ。
本当にそうだろうか。
はぐれないために、好きでいるために、繋がっていたいがために。
全ての行動に理由が必要というわけではないけれど、今は必要な気がした。
手を繋ぐ理由は?





隣のは微笑んでいる。
ワンピースが揺れる。
俺の、心も揺れる。
春風が舞う街。俺の心を舞うのは塵?





「どうしたの?」
「あ?いや・・・」
「意識がぶっとんでるよ。心配事でもあるの?」





俺の得意技、インサイト。が使ってる?見抜かれている?
きっとの直感がそう言っているんだ。の直感がインサイト。





のことは好きだ。
好きで、好きで、こんなに好きになったのは生まれて初めてだ。
だから、大切にしたい。手ばなしたくない。
手ばなしたくないから、手を繋ぐんだ。





さーん!!」の名前を呼ぶ声がする。
前から手を振って歩いてくる男達。見慣れない顔。
のバイトの後輩達。
は俺と繋いでいた手を離す。
繋ぎとめようと手を伸ばしたけれど、空振り。
笑顔で会話する達。
俺は、黙って傍に立っている。
会話は耳に入って抜けていった。





が彼らに手を振って別れを告げる。
「ごめんね」と謝るだけれど、謝る必要なんて全くない。
そして、俺の手を握るの手は、温かかった。
義務なんかじゃない、手を繋ぐことは。
繋ぎたいから繋ぐだけ。





「景吾は、いっつも考えすぎなんだよ」
「俺が?何を?」
「何を考えてるかなんてわかんないけど、眉間にしわが寄ってるもん。
 デートなんだから、楽しむことだけ考えてたらいいんだよ。忘れられない心配事ならお風呂の中で考えて」





そうだな、せっかくデート。久しぶりに持てたふたりきりの時間。
映画を見て、が楽しんでいる表情を拝んで、ごはんを食べて、二人で手を繋いで歩く。
それだけだ。
簡単なこと。悩み事は家でゆっくり向き合えばいい。
一日が終われば、答えが出てくることもあるんだ。
悩んでいる俺が隣にいても、は楽しめない。
楽しむことだけを、楽しむことだけを考える。





些細なことだけれど、自分で認識できないこともある。
だから、の言葉に耳を傾けて、の表情に目を光らせて、自分がどうあるべきかを考える。
自分のことだからわからないんだ。主観ばかり入るから。
好きだから、手を繋ごうとする。
そう、それだけだ。





が少し目を大きく開く。
何に驚いたのだろうか。





「眉間のしわがなくなったよ。肩の力が抜けた感じ?表情も柔らかいよ。そのほうが、自然でいい」
「そうか?」
「うん、今日はデートできてよかったよ」
「まだ、始まったばかりだろ」
「うん!」





のとびきりの笑顔が見られるのがいい証拠。
義務なんてここにはない。
ただ、自分がしたいからするだけ。
笑いたいから笑うだけ。
繋ぎたいから、手を繋ぐだけ。





手を握る力を、少しだけ強くした。









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手を繋ぐ話ばかり書いていたので、
手を繋ぐのが義務になっているというのがふと浮かびました。
何事も義務になるとおしまいじゃないかと。

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