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「ほらほら見てー。カップケーキ作ったの!」
無邪気なは、俺の気持ちを知らずに手作りのお菓子を俺に差し出す。
もちろん断るわけなんてない。
俺は喜んで受け取って食べるのだ。
今日はバナナをすりこんだバナナカップケーキ。
バナナのいい匂いがした。

に彼氏はいない。
誰にでも分け隔てなく接する。だからこそ、俺にもカップケーキを持ってくるのだ。
「うまい」と言ったときのの笑顔。あれがたまらない。
作った本人は「おいしい」の一言がほしくて作るのだから、当然と言えば当然。
生徒会室にいるのは、俺との2人だけ。
は、俺の一言に満足したらしく、笑顔でパソコンに向かっていた。
俺は、カップケーキをつまみながら、生徒会報に目を通していた。
間違いに赤ペンで印を入れる。

俺の仕事は終わった。
には悪いけれど部活に行かなくてはならない。
謝って、部活へ赴く。
「いってらっしゃい」と手を振るは、子供を見送る母親のような表情を見せていた。
俺はの子供じゃないけれど。





部室に入る前、生徒会室の明かりは灯っていた。
もちろん部室を出て部活に参加する前も灯っていた。
部活を終えて部室に入る前、生徒会室の明かりはまだ灯っていた。
部室を出ても、まだ灯っていた。
がいるのだろうか。消灯し忘れ?
不思議に思いながら、寄り道して帰ろうとしつこく誘う忍足を振り払い、生徒会室へ向かう。
鍵はかかっていなかった。
午後7時。が、ひとりで生徒会室の大掃除をしていた。
掃除機のゴーという音が響く。
俺に気づいて、は手を休める。





「あれ、跡部くん、帰ってなかったの?」

こそ、何大掃除なんかしてんだよ」

「プリントを落としちゃって、そしたらめっちゃ汚くて、だから掃除しようと思ったの。
 誰もいないから掃除機かけても迷惑になんないかなーって」

「もう暗いから早く帰るぞ」





俺が掃除機を片付けている間に、に帰り支度をさせる。
ちょこんと立っているの手を引いて、さっさと生徒会室を出る。
鍵をかけたら職員室へ。
担当の先生はまだ残っていた。鍵を渡して「さようなら」とあいさつをする。
夜道は危ない。
をひとりで帰すのは心配だなと思い、家に電話して車を呼ぶ。
ロビーで黙ったまま、車が来るのを待つ。
の顔は笑顔じゃなかった。
俺に申し訳ないとでも思っているのだろう。
そんなこと思う必要はない。
好きな奴を心配して何が悪い。

車が着いたらしい。
の手を引こうとすると、「大丈夫、ひとりで歩けるから」と断られた。
赤ちゃんじゃないから歩ける。けれど、見失ってしまいそうだから手を引いていた。
恋人同士ならありえる光景、けれど、俺達はただの生徒会仲間。
手を引くべきではなかったかと後悔する。
の足音を身体で感じながら、校門まで歩く。
車に乗り込むと、は笑っていた。
「すっごーい。乗り心地よすぎ」無邪気ないつものだ。

車は揺れる。
窓越しの景色は移りゆく。
真っ直ぐ前を見つめるの横顔は、ずっと変わらない。
俺の想いも変わらない。





「今度さ、何食べたい?」

「え?」

「またお菓子作るからさ、跡部くんは何が食べたいのかなーって思ったの」

「今度か・・・・・・」





何だっていいよ、が作るものなら。
何でも喜んで食べるよ。





君のためならどこへでも行くよ。









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うわー、中途半端な終わり方ね、これ。
最後の3行は、お気に入り。
今更ですが、学校でカップケーキを作って振舞っているのは、
彼女持ちの男性陣には迷惑な・・・話???

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