[ confidence ]





「ありえない!」

「それはないな」

「跡部のバカ」

「否定されたらバカって言えばいいってもんじゃねーよ、バーカ。はなってないな」

「言ってんじゃん、自分だって」





あーあーあー、もう、どうして跡部サマという奴は「ああ言えばこう言う」なのだろう。
私は呆れてうなだれる。
当の本人は知らん顔で机の上に広げた会議資料に目を通していた。
不穏な空気を察して、誰も生徒会室に入ろうとはしない。
2人だけの生徒会室は、重い空気に包まれていた。
だって、ありえないよ、突然休みの日に他校の学祭に行って生徒会執行部にあいさつしてこい、だなんて。

もうその日に約束してるんだよ、チコちゃんと美容院に行くから予約したんだよ。
それからお昼ごはん食べて、バーゲンしてるからお気に入りの古着屋さんに行って、プリクラ撮って、
タワレコにCD買いに行って、本屋で立ち読みするって決めてあるのに。
大事な友達、同じ学校じゃないから1年に2,3回しか会えないのに、どうしてそんな日に限って突然予定を入れられるの?
しかも、家族の用事じゃなくて跡部サマの都合!
「女が行った方が見栄えがいいだろ」そんな理由で私なの?ありえないよ、生徒会長が行くべきだ!
断固反対、そんなの正当な理由じゃない。
私の頭はオーバーヒート寸前だ。

それでも跡部の命令は絶対。
どうしたものか考える。私以外のメンバーは休日1日中予備校に通いつめている連中だ。
行けるわけがない。
部活をしている跡部と私、どちらかが行けとなると、私になるのは当然だ。
どうしたものかと思案にくれながら、黙って生徒会室を後にした。
いつもいつも、跡部と口げんかすると気分が悪くなる。
吐き気がするわけじゃない。でも、モヤモヤする。





次の日、血相を変えた忍足と向日が登校したばかりの私の元へやってきた。
驚いて尋ねると懇願される。





ー、頼むから、跡部のかわりに学祭行ってくれよ!!」

「お願いや、ちゃん。跡部が学祭行くから試合でえへんって言い出しよって」

「は?試合?」





頭をフル回転させる。
試合だとわかっていれば、私が行かなければならない。
なんとしてでも予定をキャンセルして、チコちゃんに謝り倒しただろう。
跡部はそうすることを予想していたはず。跡部にとってそのデメリットがあるのだろうか?
きょとんとしていると、忍足が言うには、
ちゃんが予定をキャンセルせんでええ方法を思いつくかもしれへん。
 だから、あえて納得いかない理由をつけたんや」
ということらしい。
そんなもの思いつかないよ。

何も思いつかないよ。私に何を期待しているの?
ドアノブを回せば簡単に開くはずの扉。
なんだかとても重たく感じる。
生徒会室の中には、跡部以外誰もいなかった。
私と跡部がもめることを察して、どこかへ避難したのだろう。
荷物だけが置いてある。

「私、行くよ」そう言ったのに、跡部の反応はなかった。
黙ったまま、こちらを見ている。
何か言えよ、と思ったけれど、何も言わずに跡部の様子を伺った。
「だから、ヤなんだよ、が副会長なのは」と跡部が呟いたような気がした。





「何よ、補佐しきれてないって?」

「そうだな、補佐しきれてないよな。補佐じゃなくて、ほとんど生徒会長。仕事、しすぎ」

「そんなに有能じゃないよ、私は」

「思ってるほど無能じゃない。部活あるから、迷惑ばっか掛けてるよな、俺。
 好きだから守ってやりたいと思うのに、迷惑ばっか掛けてそんなこと言えたもんじゃねえよな」





ぎょっとして、私は凝固した。そして昇華しそう。
何を言った、こいつ?
私のこと、好きだって言った?
さん、頭をフル回転させます。
思いついたことはコレ。





「じゃあお願いがあるの。学祭行くから、友達も連れて行っていい?跡部には迷惑かけないよ。
 跡部は試合にいけるし、私は友達に会えるし、一石二鳥だねーん」





笑顔で言うと、跡部サマが申し訳なさそうな顔をするのだ。
私にだけ見せてくれる顔。
跡部の隣の席に座る。
いつもより、ぐーんと私と跡部の距離は短い。
肩をくっつけると、「積極的だよな、は」と面白くなさそうな声が聞えた。
声とは裏腹に、表情がちょっと嬉しそうだったのは秘密だ。









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久しぶりにこういう強気な女の子の話が書きたくなったので。
でも、ありきたりかしら?
信頼って大切。

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