[ デ ィ ア マ イ フ レ ン ド ]
大切だから壊したくない。
そんなことを思っていたら、何にも得られない。
だからといって、大切なものを笑って壊すような馬鹿もいない。
堂々巡りだ。
結局、自分がどうしたいかなんてわからない。
手を伸ばせばいくらでも触れられるのに、怖くて触れられないんだ。
いつからこんなに臆病者になったのだろう。
もう、何もわからない。
俺の気も知らないで、は「おはよう、跡部」と笑顔で声を掛けてくる。
周りには誰もいない通学路。
枯葉達が風に後押しされて飛び立っていく。
そのうちの1枚が、の頭の上に降り立った。
「あ」と小さな声を上げるは、妙にかわいらしく見えた。
枯葉をつまんで地面に落とす。
は「ありがとう」とまた笑って言うんだ。
あぁ、これでいいんだろうな。
今までどおり、普通に友達やってりゃいいんだ。
「さむー、今日は特に寒いよね」
「寒いのにマフラーしねえの?」
「忘れたのー。準備不足です。天気予報見るの忘れたんだもん」
「それくらい見ろよ」
「跡部サマと違ってそういうのに疎いんですよー」とふくれっつらを見せながらは言う。
俺が顔をしかめると、は笑った。
俺もつられて笑う。
寒い朝だけれど、ポケットに手をつっこむより温まった。
多分、心が温まったからだ。
「心が寒いから寒く感じるんだよ」と言えば、大爆笑が返ってきた。
「そりゃそうだ、淋しい女だもんねぇ、跡部と違って」と。
価値観の相違。
恋人がいるいないの問題じゃない。
何をどう思うかの問題だ。
好きな奴と一緒にいて笑える。それで凍える奴なんているのか?
「好きな人、か」呟くの瞳はどこか遠くを見ていて、淋しそうだった。
たった4文字で表せる言葉。けれど持つ意味は大きい。
自分のことを狂わせてしまう大きな存在。
なくても問題は無い、けれど、あれば心強い存在になりうる。
俺を狂わせる。けれど、前向きになろうと思わせてくれる強く大きな存在。
は、俺にとってそんな人だ。
疲れているときは、いちばん傍にいて欲しい、そんな叶わぬ夢を抱く存在。
物思いにふけっていて、の視線に気づかなかった。
「妄想中?」とまじめな顔で尋ねる。
俺はまた顔をしかめた。
は笑っていた。
「跡部はさー、好きなコいないの?最近噂ないよねー。大学生のおねーさまたちはどうしたの?
とっかえひっかえしてたんじゃ・・・?」
「全部、根も葉もないただの噂だ。昔付き合ってたのが大学生だったって話なだけ」
「そうなんだ!どんな人?ね?ね?」
「おまえ・・・そんなに他人の色恋沙汰に興味あったのか?」
「跡部のだからだよ」
それは、少しでも俺のことを気にしているからか?
そう思ったけれど、続いた言葉にそんな考えはかき消された。
「だっておもしろい話聞けそうだもん」とは、俺のことを何だと思ってるんだ、こいつは。
沸き起こった怒りを鎮めて、何か話そうとしたけれど、特に話すことは思いつかなかった。
強いて言うなら、これだろう。
「そういうおまえはどうなんだ?」単純な答えだ。
意外と答えは返ってきた。
「私は、好きな人、いるけどね」
「いるけど?」
「多分叶わぬ恋だからいいの。ただ、その人と話したり一緒にいられる今のままで十分。
頑張るの、面倒くさいもんねー」
こんな理由は聞いたことがない。
恋をすると、必要以上に張り切ったり、女は綺麗になるとか言うけれど、
は恋をしているのに頑張るのが面倒だと言い張る。
たしかに、その理論は間違っていないと思う。
好きな人ごときに、自分の人生振り回されてたまるかという意思にとれるから。
俺も、似たようなものかもしれない。
振り回されたくない、振り回したくない。
大切だから、今の関係を壊さず維持したい。
だから、頑張らない。
意外と似たもの同士なんだなと思った。
単に恋に対する姿勢が同じなんだけれども。
どんなに考えても、触れる恐怖はぬぐえない。
けれど、今はまだこのままでいいのだと思った。
触れたいという想いが限界に達すれば、恐怖なんて消えてなくなるはず。
友達ほど、大切なものはないから。
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恋心を打ち明けられない若人達。
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