[ 背 中 合 わ せ ]





西の窓から夕日が見える。
生徒会室が燃えるように真っ赤に染まる。
机の上に積み上げられた書類。
俺が試合や部活で生徒会室に寄れなかったのは、たった3日。
けれど、毎日、行事やら何やらで生徒会への許可願いがたくさん提出されていた。
優秀な副会長が書類を全部片付けてくれたけれど、俺の承認印が必要だから1枚1枚丁寧にチェックし印を押す。
もちろん、ありえない届けがあればよけて明日にでも確認することになる。

生徒会室には俺以外誰もいない。
外の扉には『営業終了』の札を出して全てのカーテンをひいて部屋の明かりは漏らしていないのに、誰かが部屋の扉ををノックする。
無視して俺はひたすら書類に目を走らせていたけれど、訪問者は扉をガンガン叩きはじめたので俺は耳を塞ぎながら扉をバッと開けた。





「うっせーな。1回ノックすりゃわかるだろ?・・・ってかよ」

「ごめんしゃい」

「ちゃんと日本語話せよ。『ごめんしゃい』ってよぉ・・・」





俺は鼻で笑ってを迎え入れた。
扉を閉めたら鍵をかける。
誰にも入ってほしくないから。
特にとふたりきりの時は。
この空気を誰にも邪魔されたくない。
俺は黙って元の席につく。
は窓辺で俺に背を向けて夕日を眺めていた。





「どうしたんだよ、こんな遅い時間まで学校にいるなんて珍しいよな」

「みんなでおしゃべりしながら宿題してたの。
 景吾、部活終わってから仕事するって言ってたからいるかなって思ってね、来てみたの」





の声は俺の耳には届くけれど、どこか遠くへ向かって発しているように思えた。
俺と会話しているのに、は俺を見る気配すら見せない。
窓の向こうの沈み行く太陽を眺めて、ぼんやりとしている。

部活の後、生徒会の仕事をするから遅くなって一緒には帰れないと、には伝えた。
おしゃべりのついでだとしても、俺のことを待っていてくれたことには変わりない。
それが嬉しかった。と同時に、俺を待つ理由が何かあったのだと気づく。
どうせのことだ。俺に隠して自分で抱え込んで話せずにいるのだろう。

俺とは絶対に目を合わそうとしない。
俺が話しかけても絶対にこっちを見ない。
俺は、仕事をする手を止めての隣にいく。
それでもは俺を見ない。
だから、俺はと背中合わせになる。
背中をぴたっとくっつけると、は「あったかい」と言った。





「当たり前だろ?俺はまだ死んでねぇからな」

「そうだね、景吾は生きてるもんね」

「って、が死んでるみたいじゃねぇかよ」





返事がなかった。
後ろを振り返ると、が肩を小さく震わせて泣いていた。
肩をつかんで無理矢理俺の方を向かせる。
俺が抱きしめる前に、から俺の胸に飛び込んできた。





「生きること、ほど、辛いことなんて、ないって、思ったけど・・・でも・・・」

「でも?」

「景吾といると、景吾はすっごく私に優しいから、頑張って生きようって、思えるのっ」

「無理に一生懸命生きなくてもいいんじゃねぇの?のペースでゆっくり歩けばさ。
 ずーっと走り続けてたら、疲れて倒れちまうだろうよ。たまには休まねーとな。
 置いていかれたら走ったり早歩きしたりしてな、追いついたらいいだろ?そんで、またゆっくり歩いてさ」





はこくんと頷いた。
生きることほど辛いことなんてないだろうよ。
けど、生きることほど楽しいことだってないはずだから。
俺の存在がの支えになるのなら、それでいいと思った。
の存在は俺にとって支えだから。

今日は仕事を生徒会室でするのは諦めよう。
家に持って帰ってやろう。
今日は、夕日が沈む前にと一緒に手を繋いで帰ろう。









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高校の生徒会室に「営業終了」ってかんばんを作って掛けたことがあったので。
なつかしい・・・(笑)
生きることほど辛いことなんてないし、生きることほど楽しいこともないと思う。



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