[ ポ ー シ ョ ン ]





初夏の中間テストが終わり、俺たちは夏の大会に向けて毎日テニスの練習に励んでいた。
その合間をぬって生徒会室へ足を運び、総会に向けて資料の作成の指示を出す。
明日の中央会議の資料の担当はだったなと思い出し、俺はホームルームが終わった後、生徒会室へ向かった。
生徒会室にはすでに先客がいて、それが後姿でだとわかるのに時間はかからなかった。
の隣の椅子をひいて、そこに座る。
は英語のノートを写していて、昨日欠席していたことを思い出した。
もう体調はよいのだろうか。無理して来ていないか心配になる。






「あ、跡部くん」

「よぉ、昨日休んでたんだろ?もういいのか?」

「おかげさまで・・・と言いたいところなんだけど。
 まだお腹痛いし頭も痛いし眠いし明日の資料できてないし、わーん、誰か助けてくれ」





お腹が痛いと頭が痛いが重なることといえば俺にだってわかる。
残念ながら代わってやることもできないし、その痛みがどれほどのものかもわからない。
ただ、それ以上に元気がないことはわかる。
友達から借りたであろう英語のノートを写すは、義務的にノートを写しているように見えた。
あと、何かに集中して嫌なことを忘れようとしているようにも思える。
・・・失恋、したか?それくらいしか心当たりは無い。





「テスト、どうだった?この前図書館で会っただろ」

「あ、うん。ダメね。平均65点くらい。集中できなくてね・・・」

「酷いな、にしては。・・・失恋したとか?」





ぎょっと目を大きく開いては驚いていたけれど、軽く笑っていた。「跡部くんのインサイトには敵わないね」と。
はノートを写す手を止めて、窓の外を見ていた。
その男のことでも考えているのだろう。





「好きだったのよね、すごく優しくて思いやりがあって素敵だったなぁ。でも、彼女がいたのよ。私、知らなかったからショックだった。
 たまたま、デートしてる現場目撃しちゃったのよね。ペアリングしてさ、とっても仲よさそうだったよ。
 ずっと片想いしてたのね・・・」

「奪い取ろうとか思わねぇのか?」

「きっとあの彼女には敵わないわ。とてもかわいらしくて、彼のことしっかり支えてあげてるみたいだった。
 仕方ないよ、私よりあの子のほうがいいんだから。どんなに頑張っても無駄なの。
 新しい恋、探さないとね。その前にノート写して、資料作って・・・あーん、頭痛い・・・」





は机に伏せてしまった。
俺にできることなんて1つしかないに決まってる。
俺は「ちょっと待ってろ」と言って生徒会室から抜け出した。
保健室で先生に頼み込んで薬とグラス一杯の水をもらう。
急いで生徒会室に戻ると、まだは机に伏せたままだった。
グラスをの頬に当てると、冷たさには「ひゃっ」と小さな悲鳴をあげて飛び起きた。





「バファリン、飲んだら楽になるだろ。
 っつーかさ、昨日もこれで休んだんだろ?なんで薬持ってこねぇんだ?辛いのは自分だろ?」

「大丈夫かな、て思ったから・・・ゴメンね、ありがとう」





今日、初めて笑顔になったを見た。
ドキリとした。胸に何かが突き刺さったような感覚。
の開いたかばんから見えている黄色のクリアファイル。
いつも生徒会の資料を入れているその黄色のファイルを取り上げて、パソコンの前に向かう。
ファイルの中にいれられたフロッピーと手書きの会議資料。
はっきりとした見やすい字でまとめられたそれは、赤ペンで重要事項を書いてありとてもわかりやすい。
他人の俺でも続きを作成することは容易だろう。
それに生徒会長が会議のことを把握していないわけがない。内容ぐらいわかる。





「あ、それ、や、まだできてないっ」

「いいんだ、だいたいできてんだろ?続きは俺がやるから、はノート写したら家帰って寝てろ。
 そんな辛そうにしてる顔、見てらんねぇよ。ゆっくり休んで、元気になったら俺の分までバリバリ働いてもらうからな」

「あ、ありがとう。じゃぁお言葉に甘えて、今日は帰らせてもらうね。
 跡部くんて普通に優しいね。
 向日くんが冷凍庫みたいに冷たいし、ドッヂボールで全力で投げたボールがあたったときみたいに痛いって言ってたよ。
 今日のバファリンの半分は、跡部くんの優しさだね。あーあ、跡部くんのこと好きになればよかったかも。ライバル多いけどね」





向日には、酷い言われようだなあと自分で思いつつ、苦笑した。
そして、最後の言葉に同意する。
初めから俺のこと好きになればよかったのに。 そうしたら絶対俺がを大事にしてやったのに、
いろんなことから守ってやるのに、幸せにしてやるのに。
あくまで理想論にすぎないのだろうけれど。
「また明日ね」と手を振るを見送った。
明日になれば、元気なの姿が見られる気がした。

「どうして、俺のこと最初から好きにならなかったんだよ・・・」

右手に力を入れて拳をつくる。
行き場の無い想いが宙を彷徨う。
は、俺のこと優しいと認めた。
だったら、溶けてなくなるくらい優しくしてやろう。
そうしたら、俺のことを認めてくれるだろう。

絶対振り向かせてやる、そう決心した初夏の放課後、生徒会室。
俺はひとり、パソコンに向かい明日の会議の資料作成。
は、男へ想いを馳せながらベッドに転がるだろう。





   俺はあの子の傷薬になれただろうか。









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すらすら話の流れが思いついたので書きました。
ポーションはFINALFANTASYの傷薬です。200回復します。
バファリンネタは前にも書いたな・・・なつかしい。
生徒会室の空気はとても心地よかったなぁ、高校時代。
常にたまり場になってました。


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