# 1 0 0 の 笑 顔 #





おもしろくて笑ったことも、嬉しくて笑ったことも、楽しくてわらったことも、呆れて笑ったことも、
全部、ぜーんぶ、私の大切な思い出。
もちろん、笑った思い出だけじゃない。
辛くて泣いたことも、悲しくて泣いたことも、感動して泣いたことも、嬉しくて泣いたことも、笑いすぎて涙が出たことも、
全部、思い出。

たった今できた大切な思い出は、日吉くんが笑ってくれたこと。
普段笑わない人の笑顔というものは、どうしてこんなに素敵なんだろう。
心臓が、破裂しそうなくらい、ドキドキする。
顔がほてってくる。
目が、日吉くんから離せなくなる。

他人から見れば奇妙な私。
もちろん日吉くんから見ても、私は奇妙だと思う。
呆れて笑う日吉くん。机の上にプリントをきれいに並べる。
そして、ホッチキスで隅を留めていく。
息を飲み込んで、私は心を落ち着かせる。
頷いて、プリントを手に取り日吉くんと同じようにホッチキスで留めていく。

プリントを3枚重ねてホッチキスで留めるだけの、単純作業。
クラスの40人分、資料を作れば終わる、私と日吉くん、ふたりきりの時間。
パサパサと紙が触れ合う音。
カチンとホッチキスで留める音。

なんだか音が小さくなったなと思い顔をあげてみると、日吉くんは手を止めていた。
私は慌てて、作業の速度を上げた。
日吉くんの手が私の目の前に広げたプリントに触れる。





「や、いいよ。私の分だから全部やるよ」

「暇だから、手伝うよ。、ちょっと遅いしさ」

「遅くてわるぅございました。・・・ありがとね」

「どういたしまして」





どうでもいいことを話していたはずなのに、日吉くんの笑顔が見られたんだ。
何を話していたのかを思い出す。
本当にどうでもいいことだ。
宿題が出たとか、今日の授業は疲れたとか、もうすぐ中間テストだとか。
そんな会話から、どうして日吉くんの笑顔が生まれたのだろう。
不思議でならない。

最後の3枚のプリントを重ねて、私はホッチキスで隅を留めた。
40人分の資料が完成した。
「お疲れー」と言えば、日吉くんは少し微笑んで「お疲れ」と言ってくれた。
日吉くんは資料を集めて教卓の下にしまった。
「帰んないの?」と尋ねられて、ぼーっとしていたことに気づく。
いや、ぼーっとしていたわけじゃない。日吉くんのことを見ていたんだ。

我に返り、かばんを持って立ち上がる。
教室を飛び出せば日吉くんは待っていてくれた。
調子が狂ってしまう。
日吉くんは、笑わなくて人にペースをあわせたりしない子だと思っていたから。
正反対だ。
よく笑う、もちろん普段笑っているところを見たことはないけれど。
私が教室から出るのを待ってくれた、それは途中まで一緒に帰るってこと?

日吉くんの隣に並んで歩く。
きっと部活があるから校舎の外までの短い時間だけ。
それでも嬉しかった。
こうやって日吉くんと並んで歩けるのが。





「そうやってたらかわいいのにな」

「へ?あたし?」

以外誰がここにいんだよ・・・」

「や、かわいいなんて言われたの、初めてだから衝撃的」

「そういうのがいいんだよ」





また、日吉くんが笑ってる。
期待、してもいいのだろうか。
それより、もともと私は日吉くんのことが好きだった?
そういう感情は持っていなかった。
日吉くんの笑顔が、眠っていた気持ちを呼び覚ましたんだ。
今の私は、日吉くんが好き。
うん、好き。





かわいい、なんて言われて、ときめかない人なんているのかな。





「もしかして、あたしのこと、日吉くんは好きだったりする?」

「もしかして、じゃなくて。好きだ」

「や、そんな素の顔で言われても、あたしどうしたらいいかわかんないよ」

「どうしたらいいかなんて、俺のほうがもっとわからない。自分で考えな」





告白されたのにあっさりしている、私。
告白したのにもっともっとあっさりしている、日吉くん。
げた箱の前で、立ち止まり考える。
今するべきことは、うわばきからローファーに履きかえること。
振り返れば、まだ日吉くんはいた。
一緒に校舎の外に出ると、強い日差しにめまいがする。
日吉くんとはここでお別れ。
反対方向へ、お互い足を踏み出す。
考えがまとまった。





「あたし、日吉くんと一緒にいたい」

「そう」

「でも、今日は帰る。バイバイ、また明日ね」





笑顔で、笑顔で。
私が笑顔をたくさん見せれば、日吉くんも笑ってくれる。
そう信じて、今日も、明日も、ずっとずっと笑顔でいようと思う。









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大トリのお題です、100の笑顔。
誰にしようか、始めたころからずっと悩んでたんだけど、日吉くんで。
100っていうのはたくさんというイメージがあるので、たくさんの笑顔。
日吉くん、笑わないよねぇ。

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