[ Valentine's Day 2015 ]
■柊仁成くんの場合
「柊センパイ! ハッピーバレンタイーン」
は俺の背中にタックルをくらわせ、俺は当然のことながらよろめいた。
文句を言おうとしたら、目の前に箱を差し出される。
「センパイには特別に、ガムの詰め合わせを差し上げます」
「ガム? どうして俺に?」
「だって、チョコはたくさんもらったでしょ。それを溶かしてあげます」
「ガムとチョコレートを一緒食べれば溶けるっていうな」
「ぜひ! 実践してください。他の女子からのチョコを食べるなんて腹立たしいから、溶かして消してください」
バレンタインにガムをもらったのは初めてだ。
「私はセンパイのことが好きですから、なんとしても印象に残ることをしたかったんです」
「それで、タックルにガム、か」
「印象に残りました?」
「残るけど・・・マイナスの印象だな」
「そうですよね。忘れた頃に、ちゃんとチョコレートは用意しますから」
「期待しないでおく」
「ちょっと! 少しくらい期待してくださいよ〜」
口ではそう言っとく。
過剰なくらい、期待してるから。
■高岩覚司くんの場合
「なあ、さん」
「名前を勝手に呼ぶな」
「いいじゃん、呼ばせてよ」
「嫌よ。高岩ファンに刺される」
毎年これだ。
俺はバレンタインデーにはからチョコレートがほしいんだけど。
と言っても、今年は土曜日だから、前日の13日にこの話をしているわけで。
「しつこいわね。これで満足?」
「痛っ、チョコの箱で叩くな」
「あんたが待ち望んでる、さんからのチョコレートだよー」
ちゃんと、俺のために板チョコを用意してくれているところがツンデレだな。
「ありがとうございます! 神様、仏様、様!」
手作りがほしいけど、今は欲張らない。
いつかちゃんと振り向かせてみせる。
俺のために手作りしたいと思わせてみせる。
板チョコをもらってはしゃぐ俺を見て、
ほんの少しだけ、が微笑んでくれた気がした。
■成瀬巧くんの場合
体育館の前で女子生徒達に群がられ、俺は部活に向かうことができず足止めをくらう。
それは高岩も同じ。
ただ、高岩は笑顔で会話をしている。
俺は、こういうのは苦手だ。
困っていると、女子生徒の輪から外れたところにが立っていることに気付いた。
俺に声を掛けたいが、掛けにくい。といったところか。
そちらに向かおうとしたら、通りかかった平本にが何かを渡し、走り去ってしまった。
少しでいいから、会って話がしたかった。
結局、監督がくるまで、俺は逃げることができず体育館の前でお菓子の箱や袋を押し付けられていた。
休憩中に平本から手渡された紙袋。中には小さい箱が入っている。
少し、甘い匂いがする。
「さんから成瀬さんに渡すよう頼まれました」
「から?」
「直接渡したかったそうですが、あの状況では渡せなかったようですね。気付いていたでしょう?」
「ああ、が平本に何かを渡しているところは見えた」
「人気者は罪ですね」
「・・・・・・」
部活が終わり、帰るときにからの紙袋だけ持ち帰ろうとしたら高岩に文句を言われた。
逆に平本は「さんが見たら喜ぶでしょうね」と言う。
こんな遅い時間に、会いに行ったら叱られるだろうか。
携帯電話の通話履歴の一番上にあるの名前に触れた。
■原田徹くんの場合
最近付き合い始めた彼女は、俺にはもったいないくらいの大和撫子で、
バレンタインデーもそれはそれは期待していたのに、昨日は高熱が出たらしく学校を休んでいた。
無理だよな。病み上がりで俺に何かしようなんて思わないよな。
どうせ練習試合で千葉まで行くし、会えるわけないよな。
「徹、携帯鳴ってる。電話か?」
「うおっ、俺のか」
スポーツバッグの上に放置していた携帯が着信を知らせている。
あぁ、もう、なんで、本当に。
「! 大丈夫なのか? 熱出て昨日休んでただろ?」
『ありがとう、もう熱は下がったよ。ちょっとしんどいから、今も寝てる』
「早く元気になれよ」
『うん。ごめんね、せっかくのバレンタインデーなのに何もできなくて』
「いいって、いいって。気にすんなよ」
『原田くんはすごく期待してたんじゃないかって思って、でも、ちゃんと、元気になったら手作りで用意するから待っててね』
「よっしゃ、の手作り、いっただきー!」
『アハハ、元気だね、原田くんは』
「やべ、口に出てた」
本当に、もったいないくらいの彼女だ。
絶対、離すもんか。
何作ってくれるんだろうなぁ。
期待していていいんだよな。『待ってて』と言ってくれたもんな。
高柳に呼びかけられ、練習試合の会場へ向かうべく駅へ向かった。
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ハッピーバレンタイン!
職場で廃止するかという意見もあったけど、和ませるために必要だねってことで。
私も和みました。チョコカステラおいしかった!