[ サ ク ラ ロ マ ン チ ス ト ]





川沿いの桜が散り、桃色の花びらが川面を埋めていた。
目が離れない。逸らせない。
川にかけられた橋の上から、私はひとり川面を眺めていた。
突然背中を押されて、川に落ちるかと思い焦った。
振り返れば奴がいる。
朝倉だ。


「何してんの?」
「散った桜が川に浮かんでるの」
「へぇ、はロマンチスト?」


朝倉は意外そうな声で言った。
腹がたつな、朝倉の言い方は。
女の子は夢を見る生き物なのだから。
朝倉は私の隣でしばらく川面を眺めた後、私の手を引いて駅へと向かった。


私と朝倉の関係はよくわからない。
恋人同士ではないし友達というには親しすぎる。
血縁もない。
それでも、私が少し朝倉に恋をしているのは事実だ。


朝倉に連れていかれたのは、新しくできた駅地下のカフェ。
まだ行ったことはない。
メニューを見るだけでも満腹になりそうなくらい、豊富な種類がある。
私はオムライスを注文した。
妙に真面目な顔をしている朝倉は、どうやら注文を決めかねているようだ。
そんな朝倉がかわいらしくて笑ってしまった。
もちろん、朝倉はそんな私が気に入らないから眉間に皺を寄せる。


「なんだよ、
「だって、メニュー決めかねてる朝倉がかわいくて仕方がないんだもん」
「かわいいって言うな!」


怒るところがますますかわいらしい。
ひたすら笑みをこぼしている私に呆れて、朝倉はミートスパゲティーを注文していた。
至って普通の注文だ。


店のBGMに耳を傾ける。
洋楽だろうか。
流暢な英詞と抜けるような明るいメロディ。
朝倉は目を閉じている。
きっと、頭の中でギターを弾いてるのだろう。
朝倉が紡ぐメロディは少しひねくれた音だけど、私は好きだ。朝倉そのものだから。
朝倉がぶつぶつ何かを呟く。
そしてかばんの中から手帳を取り出して、何かを書き留める。


「どうしたの?」
「詞が降ってきた。と一緒にいるときには、よく歌詞が浮かぶからな」


少し、ほんの少しだけ朝倉が微笑んだ。
ポカンと口を開けていたから、朝倉におでこをはじかれる。
今度は笑っていた。
朝倉が笑っている。
こんな朝倉を見ることができるのは私くらいだ。
レアモノ。
この関係がいちばん良いのだ。
朝倉が笑ってくれるのならば、それだけで私は幸せだ。









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研修を受けていた本社の最寄り駅で見た景色。
散った桜の花びらが川面に浮かぶ姿。
で、サキたんの話がこんな感じでできました。

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