[ マ リ ッ ジ ハ ッ ピ ー ]
睡眠不足。眠くて仕方がない。
そんなときに限って、が駄々をこねてデートの誘いがあるわけだ。
休みが欲しい。寝たい。
「サキー、早く行こうよ」とひとり暮らしの俺の部屋に押しかけてくる。
約束の時間より1時間も早い。
「待ちきれない」と言うの顔を見ればよくわかる。
嬉しくて、楽しくて仕方がない顔。
デートをするのは2ヶ月ぶりだから。
街中で出会うこともなかった。本当に2ヶ月、メールと電話しか接触手段がなかったのだ。
「淋しかった」というとは対照的に、俺は忙しくて淋しいと思う余裕すらなかった。
睡眠と、どちらをとるのかと言われればだ。
だからデートの約束をしたんだ。
起きたばかりの俺を見て、がっかりする。
けれど、すぐに冷蔵庫と棚を見て、朝食の準備をする。
レタス、きゅうり、トマトの簡単サラダとバタートースト。
ホットコーヒーの濃い匂い。
重いまぶたが少しだけ軽くなった気がした。
朝食の準備をしない日なんてなかった。
しかも、他人が準備してくれるなんてことは家を出てからなかった。
幸せ者だな、俺は。
睡眠不足だけれど、こうして俺のために朝食を作ってくれる人がいて。
「デートで浮かれてたのって私だけなんだね。サキは全然乗り気じゃないもん。ごめんね、迷惑かけて」
「そんなことないよ。が淋しいと感じているなら、俺は穴埋めしないとなー」
「本当は、デートよりも寝たいんでしょ。休みがほしそうな顔してるもん」
図星だ。言わなくても、ある程度のことはに通じてしまう。
申し訳なさそうな顔をする。
俺は否定しなかった。けれど、サポートすることは忘れない。
「眠い。けど、今日はとデートするって決めたから・・・」
うまく言えなかったのだろうか、は苦しそうな笑顔でこちらを見ていた。
すれ違い、とはこういうことなのだろうか。
もどかしい気持ちばかり膨らんでいく。
「じゃあ、今日はサキの家でデートね。でも買い物行きたいから、10時から少しだけ付き合って」
少しだけ、元気になったようなの笑顔だった。
10時になって連れ出された先は、近所のスーパー。
は卵やバター、たまねぎ、にんじん、ハム、いろいろなものを手にとりカゴに入れる。
結婚して夫婦でスーパーに買い物に来るのはこういう感じなのだろうか。
値段、消費期限、量を細かくチェックするは、主婦のごとく手際が良い。
の、知らない一面を見ることができて、少しおもしろかった。
帰宅して「寝ていいよ」という。
スーパーにでかけたら眠気が吹っ飛んだ。
「もういい」と言えば、「ふーん」とそっけないの返事があった。
は買い出しの品物を冷蔵庫や棚にしまい、本棚の小説を手に取り読み出した。
普通の休日だ。デートなんかじゃないけれど、俺たちがふたりでいるってことに意味があるんだ。
昼前にはが動き出して台所に立つ。
タマネギを刻んで涙が出たは、タマネギに向かって悪態をつく。
傍にはオレンジ色のにんじんがみじん切りされて転がっていた。
フライパンで炒めると、野菜たちはいい匂いをさせ、一緒にいれた白いご飯はケチャップで赤く彩られる。
オムライス。
ケチャップでハートマークを描くは、なんだか楽しそうだった。
主婦を満喫しているらしい。
声をそろえて「いただきまーす」と言いランチタイムが始まる。
ふたりでいられることが幸せだった。
同じものを食べて、同じものを見て、同じ空間で時間を共有する。
久しぶりの感覚に戸惑いなんてない。睡眠不足なんて関係ない。この時間のほうが大切だから。
「オムライスおいしいねー」
「が作ったんだろ。おいしいに決まってんじゃん」
「そんなことないよー。私だって失敗するときはするよ」
「例えば?」
「うーん・・・最近失敗したことないけど」
料理好きなは、実家暮らしでも夕食を母親任せにせず作っている。
だから、さすがに失敗しない。
結婚したら、こうして毎日食事を作ってくれるのだ。
そうすれば俺の生活も変わるだろう。
毎日、生きる楽しみができる。
けれど、を守っていく自信なんてない。
だから、絶対に言えないんだ。
結婚してください。
結婚しませんか?
そろそろ結婚とか考えない?
恋人はおしまいにして夫婦にならないか?
浮かんでは消えていく言葉。
言えたら、きっと幸せになれるんだろうな。
そんなことを思いながら、今日もの後姿を見つめている。
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いつの間にかこんな話になってました。
サキたんは早く結婚しそうだなぁって。
そしてプロポーズに悶々としてそう。笑
I'll dream ... ?
dream select page ... ?