[ escape ]











名前を呼べば、は俺を見る。
されるがまま、は俺を拒絶しない。
後ろから強く抱きしめた。
重ねた唇は、柔らかい。

まるでぬいぐるみを抱いているかのようだ。
の肩にあごを載せ、ただ強く抱きしめる。
なんだか、いい気分だ。
心が落ち着く。

は黙ったまま。
俺の手の上に、手を重ねる。
さらに、落ち着く。
なぜだろう、こんなに落ち着くのは。






「なんだか、赤ちゃんみたい、サキってば」

「そうか?」

「うん、黙ってればいい気になって、この子は」

が何にも言わないからだろ」





多分、は微笑んでいると思う。
この位置では、前を向いたの表情は全く見えないけれど。
ごそごそとは動いて、俺と向かい合わせになる。
そして、微笑む。
今度は向かい合ってキスをする。
たまには触れ合わないと、想いはどこかへ消えてしまうから。

傍にあればそれは自分のものだ、という証明がしたいらしい。
自分のことなのに、他人事だ。
ただの独占欲なのに、他人事だから気づくのが遅れる。
手放したくない。
自分のものでもなんでもないのに。
手放せない。
親離れできない子どものようだ。

自分に幻滅してため息がもれる。
目の前のの顔も曇り空。
腕から飛び出した鳥は、もう戻らないだろう。
ベッドに転がれば、白い天井が見えた。
ひょっこりと、は顔をのぞかせる。
そして、俺の隣に転がり、くっついてくる。





「せっかく、くっついていい感じだったのにさ、どうして逃げるの?」

「逃げる?俺が?」

「うん、サキは逃げた、あたしから。くっついてたら幸せになれるんだよ」





独占欲に気づいて、自分に幻滅して、自分からもからも逃げた。
もう、「好き」と堂々たる態度で言えない。
全部、俺が悪いから。
「ごめん」と謝れば、はさらにくっついてくる。
「謝ることないよ。気づけばいいの」優しい声が耳をくすぐる。

ちょっと疲れているだけ。
少し眠れば、元に戻るはず。
目を閉じれば、心が落ち着いた。
それは、が傍にいることがわかっているから。
見えなくても、空気がそれを伝えてくれる。
見えなくとも、そこにの手があることがわかる。

俺は目を閉じたまま、の手の上に自分の手を重ねた。









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ノーコメントで・・・(笑)

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