[ MUSIC IS MY LIFE ]
スタジオからの帰り。
河川敷を歩く。
風が吹き抜ける。
バサバサと音を立てて髪がなびく。
久しぶりに見た顔。
懐かしい制服姿。
は、目を大きく開いて驚いていた。
そして、笑った。笑顔で、「久しぶり」と言った。
は学校帰りのようだった。受験対策の補習だろうか。
けれど、携帯をいじるわけでもなく、ただ河川敷にいた。
土手の階段に腰掛けていた。
そして、どこか遠くを眺めていた。
俺も、の隣に腰掛けた。
高校で出会っただから、家が近所でもなく、街中で会うことはめったにない。
だから、俺が学校へ行かなくなって会うこともなくなった。
多分、1年ぶり、くらいだろう。
1年経ってもの姿はわかった。少し大人びていたけれど。
「朝倉と会うの、すっごく久しぶり。うーんと、1年ぶりくらい?」
「それくらい、だろうな」
「私さ、実は朝倉のファンなんだよ。ライブも行ってるし、CD買ったし、ずっと聴いてるよ」
「え・・・」
意外だった。
俺がバンドをやっていることは知っていても、インディーズで活動を始めたことまで知っているとは。
さらにはファンだと言い出す。
嬉しいことに違いはないけれど、けれど、なんだろう。
不思議な感覚が生まれた。
は俺の姿を見ているのに、俺はの姿に全く見えていなかった。
いや、ファンの姿は見えている。
けれど、全ての姿を記憶に留めて認識することまではできない。
は、昔と変わらない笑い方で笑った。
ささいな仕草も、昔と変わらない。
1年経っても、俺は覚えていた。そういった仕草を。
あの頃、大切だったから。
と一緒にいた時間が、俺を支えてくれた。
それでも折れてしまった俺は、学校に行かなくなった。
会わなくなって、記憶の表面からは消えてしまった。
けれど、記憶の奥底には残っていたんだ。
大切なものは、大事にしなくちゃいけない。
今になって、やっとわかった。
昔の俺は、何も大事にしていなかった。
だから、折れてしまったんだ。
全てのことが信じられなくて、ずっと暗闇の中をさまよっていた。
ふわふわとしたやわらかい空気をまとっている。
隣にいるだけで、あたたかい空気に包まれる。
いつも笑顔を絶やさない。
全ての物事に対して、初めて出会ったかのように、目をキラキラ輝かせて接する。
全部、俺には、絶対できないこと。
とげとげしい冷たい空気しかまとえない。
隣にいて、あたたかい空気に包まれることなんてない。
笑顔なんて、ろくに出さない。
自分の興味の対象でさえ、目をキラキラ輝かせて接することはできない。
全部、反対。俺とは。
反対だから、俺にはないものをたくさんは持っているから、好きになったんだ。憧れていたんだ。
「時間ってほんと早く過ぎちゃうよね。もう受験生だよ、私。信じらんない」
「本当に、早いよな。俺も、バンド、続けられるとは思えなかったから」
「そだね。私、朝倉が学校来なくなって心配してたんだけど、頑張ってるみたいだから大丈夫かなって。
近藤先生からお話いっぱい聞いたんだ。朝倉の根性叩きなおしてくれたんだよね?」
「・・・ユーキさんか。確かにね」
また、は笑う。
にこりと、優しく、ふんわりと、粉雪が舞い降りるかのように。
季節は夏。
夕暮れの河川敷。
蒸し暑い日本の夏だけれど、夕方というのと、がいるのとで、居心地のよいところになっていた。
空気にのみこまれる。
気がつけば、の手をぎゅっとにぎりしめていた。
は、俺のしたいようにさせてくれた。
離したりせず、少し、にぎりかえしてくれたような気がした。
が呟いた。
「私は朝倉が好きだから、朝倉の不安とか悩みとか受け止めたいの。
朝倉がいいなって思ったこととか、楽しいとか、嬉しいとか、そういうのは共有したいの。
ファンとして。ううん、それ以上に。友達だったり、そんな感じで」
「俺も、が好きだ。けれど・・・俺には、にしてやれることがない気がする」
「そんなことないよ。私は朝倉の一生懸命な姿に惚れてるよ。憧れてる。
私も、一生懸命頑張れることを探したい。朝倉には音楽があるけど、私にはまだ見つからないから。
朝倉と一緒にいることで、頑張ろうって思えるんだよ。それだけで、もう十分」
は、俺の隣で笑う。
見返りを期待して笑っているわけじゃないんだ。
自分が笑いたいから笑うだけ。
好きになったから、想いつづけるだけ。
好きだから、一生続ける、音楽を。
ファンの全てを認識するのは無理だ。少しずつ、少しずつ理解していけばいい。
なんだ、簡単なことだ。
悩む必要もない。
やりたいようにやればいい。
横を向けば、と目があった。
赤い口元に目がいく。
触れるだけ、軽く触れるだけ。
キスした後も、は笑っていた。
ずっと、笑ってくれるのだと思う。
俺の隣で。
**************************************************
サキたん、難しい。
ELLEGARDENのことでファンについて自分なりに考えてみた結果、
サキたんはこう思ってるんじゃないかという。