[ か な で る メ ロ デ ィ ]





「ん、あれ、サキ?」

スーパーの袋を手に提げ、肩には大きなバッグをかけ、いかにもスーパーのタイムサービスでがっつり買い込みました、
という雰囲気を保っている私。高校生なんですけど・・・。
そんな私の目に入ったのは、サキの後姿。
名前を呼んでみたけれど、雑踏が抵抗になって、私の音波はかき消された。
もしかしたら、人違いかもしれない。
けれど、両目の視力2.0が自慢の私が、大好きな人を見間違うなどありえない。
私は、「1リットルの牛乳パックを2本買ったのは間違いだった」と思いながら、サキの後を追いかけた。

何度も見失った後姿。
それでも見つけて後を追った。
やっと追いついた。
サキの肩をつかんでサキが向かっていた場所を見た。
スタジオ?
ぽかんとしている私を、サキがにらみつけていた。





「肩、つかんでおいて、何にも言わないのか?」

「あ、ごめんなさい。や、なんか、商店街でサキ見かけたから追いかけてきたんだけど」

「おばさんのかっこうだな、それ」





スーパーの袋を手に提げ、肩に大きなバッグをかけた、まるで主婦のようなかっこう。
サキは鼻で笑ってスタジオの扉を開いた。
ギターを背負ったサキの背中が、なんだか寂しそうに見えた。

サキを追いかけて入ったスタジオの中。
狭い空間、けれどとても温かい空気が漂っていた。
私は隅に荷物を置いて、床に座り込んだ。
サキは、部屋の真ん中にパイプ椅子を広げ、それに腰掛けてギターを弾き始めた。
サキが弦をはじくと、アンプから音が出る。
真剣なサキの表情も、アンプから出る音も、なんだか寂しいものだった。
ここにいるだけで涙が出てくるような、寂しさを持ったものだった。

私は黙ったままずっとサキのかなでるメロディーに耳を、身体を傾けていた。
兄弟姉妹が多くて親が共働きだから、毎日炊事、洗濯、掃除をするのは私の役目になる。
毎日サバイバル。自分の時間があまりなくて、自分の勉強をしながら妹と弟の宿題の面倒を見ているだけ。
そんな私だから、このスタジオでゆったりしていられて幸せだ。
寂しいメロディーが、私の心を落ち着かせてくれた。
けれど、サキが寂しい思いを抱えているのだと思うと、落ち着いてもいられない。
「どうした?」と尋ねられて、サキがギターを弾き終えたことに気づいた。





「や、うん、なんだか寂しい曲だなーって思ったの」

「寂しい?・・・には、そう聞こえるのか」

「うん、サキの背中も、今の表情も、なんだか寂しいよ」

「全然、自覚してなかったよ。無意識のうちに、思っていることがメロディーになってたんだな」





しんみりしたところで、扉を開く訪問者が現れた。
近藤先生だった。
サキがスタジオにくるのだから、近藤先生がくるのも当然のことだ。
今からふたりで練習するのだろう。
私は邪魔になるから帰ろう。
そう思い、先生にあいさつして荷物を抱えてスタジオを離れた。

サキに何かしてあげられないだろうか。
寂しいと思っている人に、幸せだと思ってほしい。
私に、何かできないのかな。

アスファルトのでこぼこに目を沿わせる。
いつもたくさんの家族に、友達に囲まれていて、大好きな人も傍にいて、私は幸せだ。
寂しいなんてほとんど思うことなくすごしている。
寂しいと考える暇がないのかもしれない。
大好きだから、幸せにしてあげたいのに。
何も思いつかないのは愛が足りないから?

!」

私を呼ぶ声。
振り返るとサキが息を切らせて走っていた。
私の前で立ち止まり息を整える。
顔を上げて私と目を合わせると、サキは私をぎゅっと抱きしめた。





「よかった、追いついて」

「え?」

「ユーキさんにも言われた、寂しいメロディーだなって。
 を追いかけろって言われたから走ってきたんだけど、どうしたらいいかわからないし。
 ただ、なんか抱きしめたくなったから」





そう言ってサキは私の身体を離した。
私の手からスーパーを袋を奪って、それをサキは手に提げた。
「帰んないの?」と言ったサキは私の手を引いていく。
少しだけ、サキは笑顔だった。

久しぶりだ、サキと手を繋ぐのは。
よく考えれば久しぶりだ、サキに会って話したのは。
サキは学校に来ないから、学校では絶対に会わない。
土日は私が妹と弟に振り回されて、なかなか会えない。
買い物帰りに会えるなんて、本当に偶然、運命、奇跡だ。





がいるから寂しいなんて思ったりしなかったんだけど、心のどこかでやっぱり寂しいって思ってる。
 それがメロディーになってでてきたんだ。何がダメなんだろうな、もいるしギターもあるしユーキさんもいるのにな」

「少しでもひとりになる瞬間があるからじゃないのかな?私はどこにいても誰かに囲まれていて幸せ。
 サキは、ひとりでギター弾いたりしてること多いし」

「そうか・・・」





サキはそう言って少し考え事をしていた。
そして口を開いて「今度、でかけよう」と言った。
きょとんとしていると、「変な顔」と言ってサキは笑い出した。
と一緒にでかければ、きっといいメロディーが生まれるから」
そう言われて、私の存在が少し役に立っているのだと実感できた。

私と一緒にいて生まれるメロディー、聞いてみたいな。
サキのギターが、私とサキの思い出をかなでるんだ。









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祝!初サキちゃん夢です。アンケートより。
サキたんってクールだけどナイフは手放さないし、お茶目なんじゃないかな。
サキたんのこと、もっと研究します。

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