[ NEW YEAR'S DAY 2016 ]





■柊仁成くんの場合


あけおめ ことよろ おやすみ

空白文字二つ含めて全十四文字で新年が始まった。
日付が変わった瞬間、携帯電話で受信したメール。
初詣にも行かず、実家にも帰らず、一人暮らししているアパートのベッドの上に寝転がっていたら年が明けた。

は微熱が出たらしく、日付が変わる前に眠ったものだと思っていたが、そうではないらしい。
さっさと寝ろ。そんでもって早く元気になれ。そしたら、初詣に行ける。
が元気になるまで、待ってるから。

同じように十四文字返して眠った。


新年早々、朝からシリアルを食べ、郵便受けに入っていた年賀状に目を通す。
落書きみたいな立花からの便りを見て笑っていると、部屋のインターホンが来客を知らせた。
扉ののぞき穴から外を見ると、ダルマのように着ぶくれしたが立っていた。


! 熱あるんじゃなかったのか」
「もうマシになったから、おせち届けに来たの。どうせロクなもの食べてないでしょ」
「俺の食事より、自分の体を心配しろよ」
「私の体より、仁成の方が心配だよ。一人暮らしだし。お正月くらい実家に帰ればいいのに」
「帰ったって大掃除を手伝わされたりするだけだろ。それに、に会えないだろ」
「何それ! デレた? 先生ー、柊くんがデレました。明日は嵐になりそうです」
「俺ってどういう扱いなんだよ……」


これくらい軽口叩けるなら元気になったんだろうな。
ついでにもう一発。
コートを脱ぐを抱き寄せて、触れるだけのキスをした。





■高岩覚司くんの場合


冬休み前に進路が決まって安心したものの、周りはまだ受験戦争真っ只中だ。
だから、出掛けたくても誰も誘えない。
彼女のいない兄を引き連れて近所の神社に行けば、知り合いがいたらしく私は放置プレイ。
綿あめを買って食べていると、見慣れた姿を見かけた。


「あれ? 高岩くんもお参りに来たの?」
「おう、か。せっかくだから来たんだけどなー」
「けど?」
「部活の後輩と一緒に来たんだけど、はぐれた」


彼女じゃないんだ。
それに少し安心する。
だって、高岩くんが好きだから。


「まだ周りって進路決まってないじゃん。初詣行きたくても後輩くらいしか誘えなくてさ」
「私もおんなじ! だから兄ちゃんと来たんだけど、はぐれちゃった」
「兄貴だったんだ。誰と歩いてんのかなーって思った」
「見てたの?」
「あぁ。見てたら、後輩とはぐれてさ」


私を、見てたら?
それは、知り合いがいたから見てた、ってことだよね。
高岩くんを見上げると、目が合って、高岩くんが顔を逸らした。


「あ、いや、見てたって、まぁ、見てたんだけど。彼氏かと思って。そうじゃないなら安心した」
「安心、した?」
「だって、彼氏いたら俺と付き合えないじゃん」
「あ、あの……」
「ごめん、調子にのった。俺、が好きなんだ。だから、初詣で会えてよかった。困らせてごめん」


少し困った顔をした高岩くん。
そのまま手を振って去っていく。
綿あめを落としそうになって気を取り直す。
高岩くんの背を追いかける。


「待って、高岩くん!」
「……
「綿あめ、一緒に食べない?」


綿あめを差し出して少し笑うと、高岩くんも笑ってくれた。





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新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
何年経っても、アイルが大好きです。


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