[ お日さまバターとろけた居眠り ]





 昼休み、弁当箱と水筒を持って校舎の屋上へ向かう。今日は天気がいいから屋上でお弁当を食べるにはもってこいだ。日差しが強いと日焼けは気になるけれど、日焼け止めは塗っているから問題なし。屋上の隅に腰掛けて弁当箱を開けると、給水塔の陰から柊くんが眠そうに目をこすりながらこちらにやってきた。どうせサボって寝ていたのだろう。

「おはよう、柊くん」
「はよ。もう昼休みか? 購買、行ってくる」
「いってらっしゃい」

 例えば、私に女子力があったとして柊くんに食べてもらうお弁当を用意出来たら、好感度は抜群に上がるかもしれない。けれど私のお弁当は母に作ってもらっているし、料理も調理実習くらいのスキルしか持ち合わせていない。
 お弁当を半分食べ終えたところで、柊くんがパンと牛乳を買って戻ってきた。私の隣に腰掛けてパンに口をつける。薄い唇がパンに触れている。それに目が釘付けになって、私の手は完全に止まってしまった。キスしたい、なんて学校にいるときに考えることじゃない。
 集中、集中! お弁当を食べることに集中! よく噛んで飲み込む、その繰り返し。
 急に柊くんが弁当箱を覗き込んで残っていた卵焼きを指差す。

「それ、一口欲しい」
「はいはい。半分こね」

 卵焼きを箸で半分に分けて、つまんだ卵焼きを柊くんの口元に運ぶ。「はい、あーん」と言えば、黙って柊くんは口を開ける。口の中に卵焼きを入れれば、もぐもぐと柊くんは卵焼きを食べる。どうしてもその薄い唇に目が惹かれてしまう。半分になった卵焼きを自分の口の中に入れると、少し甘い味がした。母さんの作る甘い卵焼きは柊くんのお気に入りなのだ。
 目の前に食べかけのコッペパンが差し出されて「一口やるよ」と柊くんが言う。卵焼きのお礼だろう。
 一口かじると中に入っているマーガリンの甘い味がした。

 私はお弁当を、柊くんはパンを食べ終えると、二人揃って手を合わせて「ごちそうさま」と言う。
 その後、決まって柊くんは私の膝の上で眠るのだ。さっきまでサボって昼寝していたのにまだ寝足りないというのか。

の膝の上がいちばん落ち着くんだよ」
「はいはい、どうぞおやすみなさいませ」
「午後の授業は出るから、あと少しだけ」

 色素の薄い髪が風になびいて揺れる。閉ざされたまつげは長くて羨ましくなる。肌も綺麗だし、本当に美人。私が隣に並べば霞んで見えてしまう。なんで私のこと好きになったんだろうね。本当に不思議。

のマイペースなところが、俺の癒しなんだよ」

 柊くんの手が私の頬に触れてくるくると円を描いて離れていった。その手は私の太ももをぽんぽんと撫でてアスファルトを押して柊くんの上半身を起こす。髪を整えると立ち上がって私の方へ手を差し伸べる。自分の手を伸ばすと強く握られ勢いよく引き上げられて立ち上がった。スカートのひだを整えると、柔らかい表情をした柊くんが私を見つめていた。恥ずかしくなってじわじわと顔に熱が集まってくる。

「顔、赤いな」

 私の頭をくしゃっと撫でて、柊くんは背を向けて屋上から去っていった。
 あなたのせいですよ、と声にはせず心の中で思うだけに留めて私もその背を追いかけて屋上の扉を閉めた。





タイトルはOTOGIUNIONさんからお借りしました。

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勢いだけで書ききりました。若人たちには青春してほしい!

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