大きな器なんて持ちあわせていないし、器量もよくないこの私。「そのままでいてくれればいい」と彼に言われても、どうしたらいいかわからない。頭が悪いから、具体的に言ってくれないとわからないよ。抽象的なものは、よく理解できない。
 アンテナを伸ばして、周囲の出来事を敏感にキャッチ。キャッチしても、何をしたらいいかわからない。だから器量が悪いんだ。ふくれっ面で見た鏡には不細工な自分が映る。そんな私の後ろにひょっこり現れたのは仁成。鏡越しの顔は、見慣れた顔とはほんの少し違って見える。



「何、変な顔してんの。やめろよ」
「いーじゃん、別に」
「よくない。そんなを見てもおもしろくない」



 すねていると、「何、すねてんだよ」と私の顔をのぞきこんで仁成が言う。ぷいっと顔を逸らす。すると、仁成は私を追いかけてくる。堂々巡りだ。
 器量の悪い私が、この私が、仁成に好かれる為に、考えて何かを実行しようとしてる。不器用でも、仁成が喜んでくれるなら何だってするよ。私の気持ちはきっと伝わるから。
 それなのに、仁成は「そのままでいい」って言うの。張り合いがないじゃない。少しは頑張りたい。頑張れるときに頑張りたい。頑張れないときはどうやっても頑張れないから。
 ため息をつく仁成。そして、両手を私の顔へ伸ばす。何をするのかと思えば、私の頬をつまんでぐいぐいひっぱるのだ。



「やー、いひゃいいひゃい」
「おもしろくなさそうな顔はするな。こっちまでつまらなくなる」
「いたいいたいいたい。やめてよ、もー」
「楽しそうに笑ってたらいいんだよ、は。それで、俺と一緒にいてくれたらいいんだよ」



 あぁ、笑って仁成と楽しく時間を過ごすのが、「そのままでいい」ってことなんだね。今のままで、少し賢くなったり、バイトしてお金を稼いだりして、今とは違ってくるけれど、ありのままでいいんだって、ようやくわかった。
 アンテナを伸ばしても、アンテナの下の電波はキャッチできないよ。キャッチしても、出力装置がなかったら意味がないよ。私のディスプレイはまだ故障したまま。
 ちゃんと修理しよう。そうしたら、もっともっといろんなことができるようになるよ、きっと。素直な気持ちで、仁成が喜ぶことをできるようになるかもしれないよ、きっと。





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アンケートで仁成さんの「SO SORRY」が好きと言ってくださった方へお礼として書いた話。
えぇ、全然「SO SORRY」とは違う話ですね。

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