[ 初 め て の 感 触 ]





「やっきいもー、やっきいもー」


学校の帰り道、焼き芋屋の軽トラックを見かけて思わず買ってしまった。
一本食べたら晩御飯が食べられなくなるな、そんなことを思いながら芋を真っ二つにする。
断面から白い湯気が立ち上る。
かぶりついたら口の中に甘い味が広がる。
二口目をと思いかぶりついたところ、後ろから追い抜いた男子生徒と目が合った。
ひ、い、ら、ぎ、く、ん、だ!


、今、帰り?」
「・・・う、ん」
「腹減ったのか?」
「・・・う、ん」


柊くんに、食い意地の張った女だと思われた。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


「お腹すいちゃって。焼き芋おいしそうだったし。晩御飯たべられなくなりそうだけど」
「腹も減るよな」
「寒いから余計にすいちゃって」


何を言っても照れ隠しにしかならない。
また焼き芋にかぶりついた。
おいしい。それ以外、言葉が出ない。
沈黙が怖くて、食べていない方の焼き芋を柊くんに差し出した。


「食べて」
「え?」
「食べきれないから、食べて」
「もらって、いいのか? が食べたくて買ったんだろ」
「いいの」


そうでもしないと、この場の空気に耐えられない。
柊くんは驚きながらも、受け取ってくれた。
焼き芋を見て数回瞬きし、かぶりつく柊くん。
とても違和感がある。


「うまい」
「本当に?」
「ん? どうして?」
「だって、なんだか、感情が薄いっていうかなんていうか」
「はじめて、食べた」
「ええっ!?」


違和感の原因は初めて食べたということ。
それがわかれば納得だ。
食べるまでに間があったことも、感想に込められた感情が驚きばかりだったことも。


「さつまいもって甘いんだな」
「本当に食べたことないの? 柊くんって貴族のお坊ちゃま?」
「そんなんじゃねえよ。親がさつまいも好きじゃないらしい」
「珍しいこともあるんだねぇ」


思わず笑ってしまった。柊くんは拗ねた表情をする。
慌てて「ごめん、ごめん」と謝ったら、柊くんは視線を空へ向ける。


「俺、世間知らずかな」
「そんなことないよ! 私だって知らないこと、たくさんあって驚くことばかり」
「そうか、なんか、悪いな。気を遣わせて」
「そんなことないよ、ぜんぜーん問題ないよ。気にしないで」
「なんか、いいな、の、そういうところ」


柊くんに褒められた。
単純に、嬉しい。
ふわっと微風が頬を撫でるように、柊くんが笑った。
こちらを見てはいないけれど、私のためだけに笑ったように感じてドキドキする。

胸キュンとはこういうことを言うのだな。
恋とはこういうことを言うのだな。
愛おしいとはこういうことを言うのだな。


「ごちそうさま。今度、何か奢るよ」
「そんなこと、気にしなくていいよ!
 むしろ、晩御飯食べられなくなってお母さんに怒られなくて済むから、こちらこそありがとうだよ」


ドキドキする。
心臓がうるさい。
心臓のドキドキ、止まって。あ、ダメ、死んじゃダメ。

困ったな。幸せなのに、すっごく苦しいや。









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初めての感触=初恋、をモチーフに。
意外と焼き芋食べたことない人とかいそうな気がして。
我が家は祖母が家で作ったりしてたし、私がサツマイモ大好きなので。
サツマイモ嫌いな人、ごめんなさい。
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