[ 3−6MEMORIES ]





高校三年生。二月中旬。受験シーズン本番。
私たち推薦入試で合格を決めた組は卒業記念の文集を作成していた。
今月は受験に備えて授業がない。
週に一度、三年六組の教室に集まって、クラスのアンケート結果をまとめたり、
お世話になった先生方からメッセージをもらったりして文集の記事を書いた。

一年生からずっと同じクラスの柊くん。
ただのクールバスケットボーイだと思っていたけれど、次第に笑うようになった。
今ではこんなふうに、クラスメイトと談笑しながら印刷機で刷ったプリントを折っている。



「折り機が欲しい」
「これくらいがんばろうよ、柊くん。バスケット部のくせに根性なし」
……ほんと、みんなの前だと冷たい」



ツンデレの代表だもの、私。
中だるみの二年生になってから付き合いだして一年半。
なだらかな坂をのぼっていくかのように、二人の間に大きな危機は訪れなかった。
そして今に至る。



「柊くんだって、みんなの前だとって呼ばないじゃん」
「うっ」
「突いた? 私、痛いところを突いちゃった?」
「ツンデレでドSだもんな、は」
「呼んじゃった……」



柊くんと私が付き合っていることを信じていなかった女子たちの悲鳴が響き渡る。
私は大慌てで「シー」とみんなをたしなめる。
その後、みんなで大爆笑する。
ほんの些細なことが、楽しくて仕方がない。
大学合格を決めるまで、たくさんがまんしたから、今はたくさん笑いたい。

悲鳴をあげた女子たちは、同じクラスだけれどあまり接する機会がなかった人たちだった。
私の周りに寄ってきて、みんなでニコニコして文集を製本する作業を続ける。
その中でも、よく「声がでかくてうるさい」と先生に笑いながら怒られている彼女が私に話しかけてきた。



「よかった、さんがちゃんと柊くんと付き合ってて」
「どうして?」
「付き合ってる噂だけで、付き合ってる感ゼロだったもん。これで安心した」
「母親みたいな発言じゃない?」
「むしろ私はさんのお母さん」



意味がわからないけれど、楽しいからそれでいい。
こうやって、クラスメイトや柊くんと同じ教室で時間を過ごすのもおしまいだ。
クラスメイト全員が集まるのは卒業式だけだろう。
その卒業式すら、国公立大学の前期試験の結果が出る前なのだ。

事務室の印刷機で水色の紙に表紙を印刷していた男子たちが教室へ戻ってきた。
芸術大学へ進学する子が描いた表紙は、平面から今にも飛び出しそうな花で溢れている。
刷り上ったばかりのそれに触れたら、掌が黒く汚れた。
私の手を見て、柊くんは鼻で笑う。



「バカだな、は。すぐ触ったら汚れるに決まってるだろ」
「バカでけっこう。触りたかったの。触ったら、一生みんなと仲良しのままでいられる気がしたから」
「もう、卒業なんだよな……」



柊くんの一言で、教室に沈黙が訪れる。
そして、溜め息がいくつかこぼれた。
一生会えないわけじゃない。
けれど、会いたいときにいつでも会えるわけじゃなくなる。
柊くんとも学校があれば毎日会えたのに、大学は違うから毎日会えなくなる。

慣れたらそれが日常になるのかな。
今度は新しい友達と毎日会えるようになるのかな。
不安で押しつぶされそうになる。
沈んだ教室をバラ色に変えたのは、お母さん発言をした彼女。



「卒業は大人への一歩だよ。早く二十歳になって、みんなでお酒のみたいね!!」



ほんとうにそうだ。
新しい生活に不安はたくさんあるけれど、その先に明るい未来が待っている。
そんな大事なことを忘れるなんて、バカだな私。
隣にいる柊くんも小さく頷いていた。

文集をクラス全員分製本して、それを全員の机の上に載せる。
これで私たちの仕事はおしまい。
みんなで帰る支度をし、ぞろぞろと西玄関に向かった。
上履きを靴箱にしまう。
これを履くのは卒業式で最後だ。

外へ出ると、日差しが私たちへぬくもりを与えてくれる。
それぞれが、それぞれの方向へ進んでいく。
制服デート納め、私は柊くんの手を握った。
握り返してくれる手を、一生離したくないよ。









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リクエストありがとうございます、ハギさん。
卒業をテーマに第一弾(もういっこ書くよ)

ちょうど、高校時代の友人とクラスの文集が読みたいという話になり、
実家から回収してきたので作ったときのことを思い出しながら書きました。
仁成さんは推薦で手塚学院大に合格したんだろ、と勝手に想像。

わたし、高校3年間、6組でした。
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