[ 雨、あがる ]





空を見上げた。
半分青い。半分灰色の雲に覆われている。
東の空は曇天だ。
これから雨が降るだろう。
私は小走りで仁成の家に向かった。

案の定、雨が降ってきた。折りたたみ傘をさしたけれど、小走りになるには邪魔だったので、すぐにたたんだ。
右手でひさしをつくって、顔にかかる雨のしぶきを避けた。
朝は天気がよかったから、洗濯物を干したままの家がたくさんある。
もちろん、仁成も例外ではなかったよう。
ベランダに干しっぱなしの洗濯物を見つけ、私は全力疾走で仁成の住むアパートを目指した。

部屋の前の呼び鈴を押す。
足音が玄関の方へ向かってきたけれど、途中でユーターンして離れていった。
ベランダへ出たようだ。
雨が降っていることに気づいたのだろう。
私を待たせるのと、洗濯物を取り込むのと、天秤にかけてくれたのだろうか。
仁成にそんなこと求めたって仕方がないのはわかりきったこと。
気まずそうな顔で仁成は玄関の扉を開いた。



「悪い。昼寝してたら雨降ってきててさ」
「いいよ。雨降るなんて私もきいてないしさ」
「でも、傘持ってる」
「折りたたみ傘はいつも持ってるの」



仁成に促されて部屋の中に入る。
ベランダの窓は開け放たれていて、取り込んだばかりの洗濯物が床に散らばっていた。
仁成はそれを丁寧にたたむ。
私も一緒にたたんだ。

なんだか夫婦になったみたい。
そんなことを思って緩みきった顔をしていると、仁成が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
慌てて頭を左右に振る。



「それにしても、わざわざ俺ん家で録画した試合見なくてもいいだろ」
「だって、我が家は野球派だから、一緒に見て盛り上がってくれないんだもの」
「俺も盛り上がんねーよ」
「でも、一緒に見てくれるでしょ?っていうか見させる!」



私は試合を録画したDVDを鞄の中から取り出し、DVDデッキに投入する。
神奈川のローカル番組で放送されていた高校女子バスケットボールの試合。
だって女の子なんだもん。同性の人に頑張って欲しいと思うのは当然のことじゃないか。

男子の試合と比べれば、迫力がないかもしれない。
けれど、黙って仁成は一緒に見てくれた。
私は幼馴染が試合に出場しているから、彼女ばかり目で追っていた。
珍しく、仁成が声を出したから、私はベッドに寝転がっている仁成の方を見た。



「この女」
「ん?シュート決めた人?相手校のエースでキャプテンだって」
「この前、告白された」
「はぁ?」
「いつだっけ。・・・忘れたな」
「なんて答えたの?」
「さぁ、忘れた」



忘れたのは嘘だろう。
きっと全部覚えている。
けれど、私に配慮して忘れたふりをしているのだ。
どうせなら、洗いざらい話してくれた方がすっきりしていいのに。

テレビの画面は試合の模様を映し出して一時停止している。
私はじっと仁成の顔を見る。
仁成は目を合わせてくれない。
合わせてくれるまで、試合は見ない。

仁成は諦めたようだ。
起き上がってあぐらをかき、両手を挙げてお手上げのポーズをした。



「この試合があった日。近くの高校で練習試合したから、帰りに寄ったんだ。
 勝ち試合の後でテンションあがってたんだろ。通りすがりの俺を捕まえて、『好きだから付き合って』って言われた」
「それで?」
「俺には好きな人がいて、付き合っているからそれはできないって断った」
「そう」
「それだけ?」
「うん、それで十分だよ。嬉しい!」



嬉しくて、顔が緩んでしまう。
そんな顔を見せたくなくて、テレビ画面の方を向いた。
リモコンを手に取り、再生ボタンを押してDVDを再生する。
動き出した試合。
何のとりえもない私と、画面の中で逞しく活動している彼女。
どちらが魅力的かと言われれば、彼女に決まっている。

そっと、頭を撫でられた。
仁成はベッドに腰掛けていたけれど、フローリングに座った私の隣にやってきて同じように座った。



「俺はバスケットをしているのが楽しいけれど、それをしている人が好きってわけじゃない。
 俺は、俺に寄り添ってくれるが好きだ」



もう試合は見ていなかった。
雨がやんだようだ。









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雨の日に前半が思いついた。
後半、テスト勉強させようと思ったけれど、
いつも勉強させてばっかりなのでやめた。笑
こういう展開なら、面白い、よね?

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