[ 意気地なしのパレード ]





気づいていた。
後ろの席に座っている女が、俺に興味を抱いていることは。
わかっていた。
俺がその女ではなくて他の女のことを見ていることに、その女が気づいていることも。

俺はのことが好きだから、隣の席になったときは素直に嬉しかった。
昔と比べたら、仲良く話せるようになって嬉しかった。
もっと近づきたいとか、恋人同士の付き合いをしたいという気持ちはない。
友達のままでいい。
クラスメイトより友達。友達より親友。
それ以上にはならなくていい。
俺が、勉強と部活と恋人付き合いのすべてをうまくこなせるわけがない。
既に、勉強と部活でキャパシティーオーバーだ。

だから、彼女が俺に想いを伝えてくれたことに落ち込んだ。
俺には想いを伝える勇気がない。
振られることを恐れずに、これからもただのクラスメイトのままでいいと伝えてくれた彼女に、賛辞を贈りたい。
俺も、とはただのクラスメイトのままでいいんだ。
欲張って、友達になれたらそれはそれでいいんだ。
そこに、恋愛感情が存在することは、伝えられない。



「ほんと、意気地なしだよな、俺」
「え?」
「え??どうしてここに」



日が沈みかけた頃、部活の休憩中に俺は校庭をぶらぶらと歩いていた。
誰もいないはずの花壇で独り言を呟いたら、反応があって驚いたし、声の主がで更に驚いた。

互いの気持ちを知っている、俺と後ろの席の女は、傷つけ傷つきながらもよい関係を保っている。
これ以上発展しようがない関係になったとでも言えばよいだろうか。
ともそういう関係になればよいだろうか。
報われたい気持ちがないわけじゃない。
これ以上、俺には抱えきれない。



「柊くんが、意気地なしなの?」
「まあな」
「そんなふうには、全然見えないけど」
「そんなもんさ。俺だって人間だし」
「うん、そうだね」



が隣にいると、緊張する。
強烈に意識してしまう。
けれど、この空気が好きだ。
彼女といるときの、穏やかな空気が好きだ。
もっと、自然体になれればいいのに。
そうすれば、この空気をもっと噛み締めることができるのに。

溜め息がこぼれてしまう。
が苦笑する。
数日前の俺との立場が逆転する。



「でもさ、溜め息は減らして。私まで滅入るから」
「どこかで聞いたセリフだな」
「ふふ、そうだね」
「あのさ、」



言いかけて、やめた。
が不思議そうな顔をしているから、笑って誤魔化した。
何も、伝えたいことはないんだ。
ごめんな。
俺は意気地なしだから。



「あのさ、柊くんって好きな子いるの?」
「は?」
「あ、いや、その、この前、そう!そういう噂が流れてたから」
「どんな噂だよ…」
「ごめん、今のは忘れて」
「…いるよ。悩みの種だな」
「そんなにじゃじゃ馬なの?」
「じゃじゃ馬って!そういうんじゃなくて、好きなんだけど、これ以上進むつもりはないのに、近づきたくなるから困るって話」
「告白はしないってこと?」
「そうだな。俺は、このままで、今は、少なくとも今はいい」



まっすぐこちらを見て話を聞いてくれる
今は、少なくとも、このままでいい。
こうして話ができるだけでいい。
もし時間ができたら?
そのときは、進むことを考える。

もっとも、こんな意気地なしの俺が進めるとは思えないけれど。
いつか、進めるようになったら、と願う。









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続き物にしたのに、不完全燃焼?
たまにはあいまいもいいじゃない。(高確率な気もする)
学生のほうが純粋に恋できる気がするなぁ…

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