[ マ ガ サ シ タ ]





ニュースでよく言っている。「魔がさして、痴漢行為をしてしまった」とか。
まったく理解できないと思っていたのに、魔がさしてしまった。
そして、今、私は「イケメン」よりも「美人」が似合う柊くんと、間隔10センチくらい保ってにらめっこしている。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。



今日は天気がよかった。
暑くもなく寒くもなく、外でひなたぼっこしたくなるような日差しが降り注いでいる。
私は昼休みに日光浴と銘打って、学校の屋上へ上った。
立ち入り禁止にはなっていないけれど、柄の悪い連中がたむろしていて、避けられている。
けれど、時間さえ選べば誰もいなくて静かなので、昼ごはんを食べてすぐにやってきた。
いつもは上らない貯水タンクのところまで上ると、そこに人影があったものだから、静かに逃げようとしたのだけれど、
人影が同じクラスの柊くんだったから、留まってしまった。
柊くんは仰向けになって両手を頭の後ろに組んで、眠っている。

「ひいらぎくん?」呟く程度の声量で名前を呼んだ。
もちろん眠っているから無反応。
調子に乗って近づいてみる。
綺麗なお顔を空に向けて、日焼けしたらもったいないな。
柊くんの傍にしゃがんだ。
弱い風に私の髪はなびき、柊くんの髪は揺れた。

柊くんのことは、バスケットをしている姿がかっこよくて惚れているけれど、近くで顔を見ると美人すぎる。
今は眠っているからいいけれど、起きている柊くんを直視なんてできない。
私はイケメンより普通の人が好き。
イケメンは目の保養だから、テレビや雑誌の中だけでいい。

とはいえ、こんな近くにそのイケメンに分類される人がいると、魔がさしてしまう。
そして、柊くんの顔に触れてしまったものだから、今に至る。



「俺の顔、触って楽しい?」
「うえあっ、ご、ごめんなさい。お、お、起きちゃいましたか」
「ずっと起きてたけど」
「えええええー」



私が後ずさりすると、柊くんは起き上がって私と同じようにコンクリートの上に座った。
逃げたくても逃げられない。
柊くんがこちらを凝視していて、金縛りにあったように動けなくなる。
冷や汗ばかり、垂れ流している状態だ。



「なんか、いい匂いがするなと思ったら、がいたから」
「え?」
「気持ちいいし、そのまま寝たふりしてたら、俺の顔、触りだしてさ」
「うわーん、本当にごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「目には目を、歯には歯をっていうし」
「???」



「俺も触っていい?」と笑顔で言うものだから、何を触るのかも聞けず、彼の笑顔に見惚れてしまった。
柊くんの指先が私の頬に触れて、我に返る。
声を出そうにも、緊張して出すことができない。声の出し方すらわからなくなってしまう。
柊くんの指先が、私の頬を、髪を、耳をなぞる。
ばちっと目が合ってしまい、気まずくなって逃げようとしたら、右腕を掴まれた。

直視できない美人の彼なのに、今度は目を逸らすことができなくなる。
恥ずかしさのあまり、顔が噴火しそうだ。
私と彼の間、10センチメートル。
喉がカラカラに乾燥してしまい、唾を飲み込んだ。
それが合図と言わんばかりに、柊くんはじりじりと近づいてくる。
柊くんのおでこが、私のおでこにコンと当たったとき、昼休み終了5分前のチャイムが鳴った。



「やべ、もどんねーと」
「うううう、うん」
「立てる?」



すたっと立ち上がった柊くんは、若干腰抜け状態の私に手を差し出してくれた。
意外と紳士なんだと思いつつ、私は彼の手を取って立ち上がる。



ってほんといい匂いがするな」
「え?」
「俺の好きな匂いがするから好きって話」
「は?」
「っ、なんでもない。さっきのは忘れて」



話の内容を理解できないまま、顔を真っ赤にした柊くんの後姿を追いかけた。









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眠っている彼の顔を触って、起きちゃってっていうお決まりのパターン。
さりげなく告白しちゃった仁成さん、どうでしょう。
寝ぼけていてキスしようとしたのに、告白で赤面とか、かわいすぎる(自分で書いたんだが)

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