[ ホームメイドスイーツ ]





お菓子を作るのが好きだ。
その後に、食べるのがもっと好きだ。
友達に配って喜んでもらうのが好きだ。
「おいしい」と言ってもらえるのが好きだ。

だから、今年もマドレーヌを作る。
本命?あげないよ。
柊くんに、手作りお菓子をあげるなんて恐怖だ。
恐れ多い。
私があげなくても、たくさんの人からもらうんだよ、柊くんは。
私の恋心は、そっと留めておく。
それより、大事な友達にお菓子を贈るんだ!

本当はあげたいよ。
柊くんに「おいしい」って言ってもらえたらどれだけ幸せか。
でも、柊くんはただのクラスメイト。
友達ですらない。
だから、気軽にお菓子をあげられないよ。

今年のバレンタインデーは平日。
私は昼休みに、お弁当を一緒に食べる友達にマドレーヌを配った。
もちろん、友達も手作りお菓子をもってきてくれるから、配布会が始まる。
それを、遠目に見ている男の子たち。
女子の特権だ!
手作りお菓子を交換するのがバレンタインデー。
仲のよい男子が「俺にもくれよ!」としつこく言ってくるけれど、みんなで知らんぷり。
拗ねる男子を見て、大笑いする私たち。
そして、手作りお菓子のおすそ分けをする。
ちらっと柊くんの方を見たけれど、友達とパンを食べていて、こちらのほうは気にも留めていないようだった。
それもちょっと、寂しいかな。

放課後、誰もいなくなった教室で、私は一人で宿題をする。
一緒に宿題をするはずだった友達は、委員会の呼び出しを受けてしまった。
だから一人ぼっち。
けれど、委員会が終われば彼女は戻ってくるから、それまでの間。
バレンタインデーでもらったお菓子を食べながら、数学の問題集を広げる。
難しいな。
でも、お菓子があるから頑張れる。

ガラガラガラと音を立てて、教室の後ろの扉が開いた。
私は友達が戻ってきたのだと思い、「おかえりー」と笑顔で言いかけて固まってしまった。
柊くんがいるからだ。





「あ、悪い。待ち人じゃなくて」
「ううん、とんでもない」
「数学の問題集を忘れたから、取りにきたんだ」
「私は今やってるよーん」





ちょうと友達が柊くんの後ろの席だから、私はその右隣に座って宿題をしていた。
柊くんは、斜め向かいの席で引き出しの中から数学の問題集を探し当てていた。
色素の薄い髪も、整った横顔も、細いようでしっかりしていて長い指先も、私の目を惹きつけるには十分すぎる。
ぼーっと柊くんのことを眺めていたら、目が合ってしまった。
慌てて机の上に視線を移したけれど、柊くんのことを眺めていたのは事実。
追求されてしまう。





「どうかした?」
「え、あ、いや」
「なんか、からの視線を感じたんだけれど、気のせい?」
「うーん、気のせいだと思う・・・」





うまく誤魔化した。
ほっとしたのも束の間、柊くんは私の机の上のお菓子に視線を移す。
気まずい。
ここでさっとお菓子を柊くんに渡せたらいいのだけれど、自分で作ったお菓子はもうない。
あるのは、もらったお菓子だけ。
何も言えず困っていると、柊くんはさらっと一言呟いて教室から出て行った。
心臓が、止まりそうだ。
深呼吸したら、少しだけ気持ちが落ち着いた。
でも、まだまだ浮ついている。

の作ったお菓子、食べたかったな」

どうしよう、今度、柊くんのために作ってきたほうがいいのかな。
作ったら、本当に食べてくれるかな。









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お菓子作って配りまくるのは私です^^
私の中では、バレンタイン=友達とお菓子交換
社会人になってからはつまんないや。笑
ホワイトデーにいっぱいもらえるのは嬉しいんだけど…
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