[ マ ス ク 美 人 ]





ここ数年、マスクをしている人を多く見かけるようになった。
そういう私も、マスク人の一人。
エアコンをつけていると、どうしても乾燥しがち。
だからリップクリームをベタベタぬってしまう。

マスクをすると顔が半分隠れるから、個人的にはずっとしていたい。
私のコンプレックスは顔。
かわいくないから、この顔を世間にさらしたくない。
この顔で、誰かと目と目を合わせて会話なんてしたくない。

嗚呼、今日も憧れの君は、綺麗な顔をしているんだね。

隣の席の柊くんは、色白で、肌も綺麗で、顔立ちも綺麗で。
女の私から見てもうらやましいくらい美人なんだ。
私はマスクで顔を半分隠した状態で、朝の挨拶をした。





「おはよ、柊くん」
「おはよう、。まだ風邪治んないのか?」
「ううん、風邪は治ったけど。予防と乾燥対策」
「成程!俺も風邪予防でマスクしようかな」





柊くんがマスクしたら、その綺麗なお顔を拝めなくなるから嫌だよ。
と、そんな思いは伝えることなく、心の奥に留めておく。
まぁ、マスクでお揃いも悪くは無いけれど。

それにしても、高校一年生で柊くんと同じ国府津高校に入学して、たまたま同じクラスになって、
何度も席替えをしたのに、いつも近くの席になるのだ。
これは、運命!?
そんな乙女チックなことを思ってみたりもする。
けれど、近くに感じているのは私だけだと思う。
柊くんは、私のことなんて、ただのクラスメイトとしか思っていないだろう。

人は皆、綺麗なものに惹かれるんだ。

柊くんは、私のかばんについたマスコットキャラクターに視線を移す。
新しいキーホルダーは、キャラクターが大きな宝石を抱えている。
光輝く宝石に、柊くんは惹かれたんだろう。
やっぱりそうだ。
人は皆、綺麗なものに惹かれる。
だから、綺麗な顔の柊くんに惹かれる。
そして、恋に落ちる。
はじめは顔から入ったっていいじゃない。
その人を知るには、まずは見た目。
そこから仲良くなって、その人の優しさや思いやりにもっと惹かれていく。
それでもいいじゃない。





「へぇ、そのキャラ好きなんだ?」
「あ、うん。かわいいでしょ!たまにこれつけてる男の人もいるよねぇ」
「さすがに俺はつけないけどな」
「ハハハ、柊くんがつけたら、すんごいイメージ変わっちゃうよ〜」
「俺のイメージってどんな?」





柊くんは、わざわざ私の顔をのぞきこんで言うものだから、目がばっちり合ってしまう。
嬉しくないわけではないけれど、こんなにも至近距離で顔を合わすのは恥ずかしい。
例えマスクをして顔を半分隠しているとしても。
私は目を逸らして、少し考える。
柊くんのイメージは、
クールに構えているけれどバスケットに対してはすごく熱い。
ジェントルマンとは違う、さりげない優しさを持っている。
めったに笑わないけど、笑うとかわいい。
こんな感じかな。
けれど、言わない。
私は笑って誤魔化した。
柊くんは、「残念。が俺のことをどんなふうに思っているか聞けると思ったのに」と呟いた。
そんなもの聞いてどうするのだろう。





今日は友人の誕生日。
私は彼女たちと、デザート食べ放題のお店に行った。
たらふく食べて、おなかいっぱい。
私は満足して、帰りの電車に乗ろうとした。
すると、「ー!」と名前を呼ばれたので、立ち止まって振り返る。
柊くんが「よう!」と手を挙げてこちらに向かっていた。
珍しい。こんなところで会うなんて。





「柊くん、今日部活ないの?」
「ああ、ちょうど帰ってきたところ。は遊んでた?」
「うん、友達の誕生日だから食べ放題に行ってたの。おなかいっぱい〜」
「マスクしてないんだな」





指摘されて気がついた。
食べるときにマスクをするなんて不可能。
だから、はずしてかばんの中にしまったままだった。
この顔で柊くんと会話していることが恥ずかしい。
けれど、今更マスクをつけるのもおかしな話なので、「そうだね」と返事した。

「そのほうが、の笑った顔がよく見えるからいいけどな、俺は」
そんな呟きが聞こえた。
柊くんが、私の笑った顔を見たい、と?
そんなバカな。
どうやったらそんなふうに聞き間違えるのだろう。
空耳にも程がある。

けれど、柊くんはさらに続ける。
「マスクしてても笑ってるとかそういうのはなんとなくわかるけど、口元って重要だからさ」
何を言っているの?
何が言いたいの?
私にはわからないよ。





「マスクしてたらの顔が見えないから、残念っていう話。じゃ、俺こっちだから」
「え、あ、私は電車に乗って帰る」
「お疲れ!また明日な」





柊くんに、私の顔が見えなくて残念って言われるのだから、この顔、世の中に晒しても大丈夫なのかな?









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マスクといわず、仮面をつけて過ごしたいと常々思っています。
ほんと、このブサイク面を晒さなくちゃいけないのが、すごくイヤ。
休日はすっぴんでマスクしてスーパーに行きます。笑
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