[ 手 を 繋 ぎ た い よ ]
仁成の背中が好き。
大柄ではないけれど、広くてがっしりした背中。
私は一歩下がって、仁成の背中を眺めるのが好き。
仁成の髪の毛が好き。
少し色素が薄くて、指どおりのよいさらさらの髪の毛。
私はそれに触れるのが好き。
仁成の手が好き。
男の人なのに、ごつごつしていなくて細い指。
その手に触れるのが好き。
前を歩く仁成の背中を眺め、風に揺れる髪を眺め、
仁成の手を見ると、自分の手を重ねたくなる。
手を伸ばして、その手に触れてみた。
仁成は、歩く足を止めて振り返ってくれる。
「、どうした?」
「ううん、手が繋ぎたかったの。それだけだよ」
にこっと笑って私は仁成の隣に並んだ。
本当にそれだけ。
仁成と手を繋いで歩きたいだけ。
それだけで幸せになれる。
お金も、甘い言葉も、キスもハグもいらない。
珍しく、仁成がぽつぽつを話し始めた。
いつも話を始めるのは私なのに。
これも、手を繋いだ効果なのかな?
「今朝、夢を見たんだ」
「夢?」
「あぁ。・・・立花と、バスケットをしている夢」
「そっか、立花くん元気にしてた?」
「夢の中の立花は、な」
淡々と話す仁成だけれど、どこか嬉しそうにしている。
微笑ましいな。少し、嫉妬もするけれど。
仁成にとって、立花くんは唯一無二の存在で、立花くんにとっても仁成は唯一無二の存在。
繋いだ手に力を込める。
私の手は、仁成の心を繋ぎとめることができるのだろうか?
そんなこと、できるわけないよ。
仁成の心は、仁成のものだから。
私は、バスケットの存在には勝てない。
わかってる。
手を離した。
ぬくもりが消えて、手のひらに触れる空気が冷たかった。
ベストの裾をぎゅっと掴む。
仁成の手を離したから、仁成の手の代わりに。
代わりになんて、なりはしないのに。
「?」
「なーに?」
「ごめんな、立花の話をして。
は嬉しくないと思ったけれど、俺が少し嬉しいと思った話をする相手がしかいなくて」
「私は、嬉しいよ。仁成が、嬉しいと思ったことを話してくれたから」
仁成の腕が私の腰に回される。
珍しいこともあるもんだ。
私は、仁成の肩に頭をちょんと載せた。
寄り添うと、ぬくもりがたくさん伝わってくる。
仁成が、私と立花くん、バスケットを大切に想っていることが伝わってくる。
「仁成、好きだよ」
自然と口から言葉が出た。
仁成は返事をしなかったけれど、頷いて笑っていた。
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ひとなりさんとてをつなぎたい!