[ サニーハニー ]





今日はいい天気だ。
幼稚園児でも言えるような感想だなと自嘲した。
校舎の四階で友達と試験勉強をしていた私。
部室にいる先輩が、時間ができたら少し部室に顔を出してほしいと頼まれていたから、今から向かうところ。
窓の外の景色に目が奪われる。
だから、階段を下っていて踏み外した。
そのまま私はお尻で階段を滑っていき、尻餅をついた。
「痛っ」と声をあげたけれど、周りには誰もいない。
それもそうだ。
期末試験中の放課後。誰もがすぐに帰宅してしまう。
残っているのは、私たちのように試験勉強をする人くらい。
立ち上がろうとしたら、右足の甲に痛みが走って顔をしかめた。
ねんざでもしたのだろう。
私は階段のてすりを支えにして立ち上がった。
痛む足をかばいながら階段を下りていたら、「」と私の名を呼ばれた。
振り返れば仁成が階段の上にいた。





「試験勉強してたのか?」

「うん、ののちゃんが地理ニガテだからね」

「足、痛めたのか?」

「え、あ、さっき階段から滑り落ちたからそのときに、ね」





仁成は慌てて私の元へ駆け寄ってきた。
痛む足をかばいながら階段を下りる私。
「見ていて痛々しいな」と仁成が呟く。
そして、何を思ったのか、私の前に仁成がしゃがんで背中を見せているのだ。
これは、「乗れ」ということなのだろうか?
おんぶしてくれるってこと?





「とりあえず、保健室も閉まってるから職員室までおぶってくよ」

「えー、そこまでしなくてもいいよ。小さい子じゃあるまいし」

「ここから職員室までけっこう距離あるぞ」

「う、うーん・・・」





仁成の言うとおり、この階段は校舎の端にあって、職員室は反対側の端にあるから遠い。
足も痛い。
私は頷いて、仁成の背に身体を預けた。
そんなに軽くはない私の身体を、仁成は軽々と背負っているようだ。
私は落ちないように、仁成の首に腕をまきつける。

なんだか久しぶりに感じる。
仁成と一緒にいることが。
なんだか久しぶりに感じる。
仁成の温もりに触れていることが。

そういえば、このところ互いに忙しくて、デートなんてしていなかったな。
学校にいれば毎日顔を合わす。
けれど、深く話したりすることはなかった。





「なんだか、久しぶりだね」

「そうだな。試験明けの休み、宿題がなかったらどっか行こうか」

「うん。宿題出ませんよーに!」





職員室の前まで来ると、丁度峰藤先生が職員室へ戻ってきたところだった。
仁成におんぶされている私を見て、呆然としていた。
仁成が事情を説明すると、先生は救急箱から湿布をとりだしてきた。
私は椅子に座らされ、仁成は私の足を診る。
スポーツマンだから負傷には慣れているのだろうな。
手際よく私の足に湿布を貼ってくれた。

そういえば、仁成はどうして学校にいるのだろう。
いつもなら、まっすぐ帰宅して試験勉強をしているのに。





「立花の成績が酷いから、芳川たちと一緒に勉強していたんだ。
 そしたら、立花が逃亡して捜して・・・そうだ、立花を捜してたんだった」

「早く行かなきゃ!」

「悪い。部室まで気をつけて行けよ!」





慌てて職員室を飛び出していく仁成を見送って、私は足を引きずりながら部室へ向かった。
外の自販機でフルーツオレを買っている立花くんを見かけた。
声を掛けようとしたら、血相を変えて走っていった。
そして、仁成や菫ちゃん、美加りんが私の目の前を駆けていく。
私は笑いながらその光景を見ていた。

今日はいい天気だ。
ううん、今日もここはいい天気だ。









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仁成さんにおんぶしてもらう、
という設定だけ浮かんで書き上げました。

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