ただ一言、伝えるだけなのに。

それができなくて苦労する。





      [ ただ『好き』と言えたら… ]





ほとんど話したことはないから、脈アリなんてとてもじゃないけれど言えない。
ただのクラスメイト。
名前と顔を知っている程度。
けれど、あの笑顔が好きで、見ているだけで落ち着けた。
俺のほうを向いて笑ってくれないかな、と少し女々しいことを思ってみる。

毎日、目での姿を追うだけ。
話しかけることもなく、話すきっかけもなく。
目が合いそうになると怖くなって逸らしてしまう。
こっちを向いてほしいと思っているのに、逸らしてしまって、結局どんよりした空気が俺の周りを漂う。

好き。

うん、好きなんだ。

けれど、それを伝える勇気が俺にはない。





休み時間になり、教科書とノートを閉じて机とにらめっこをしていた。
顔をあげる気力もなく、トイレに行く気もなく。
大きく息を吐いて、勢いよく顔をあげた。
日直で黒板をきれいにしていたと目が合った。
ドキっとする。
思わず顔を下げ、教科書とノートをかき集めて机の下にしまった。
何をやっているんだ?
目が合うことは嬉しいことなのに、怖くなる。

何が怖い?
自分がを見ているということを知られることが?
ストーカーのように思われるのが怖い?

あぁ、の迷惑になることが怖いんだ。

机の上に伏せた。
まだ休み時間は五分ある。
五分間、目を閉じれば心も落ち着くだろう。

前の席の男が誰かと話している。
相手は女か?
この声は、
そういえば、日直はとこいつだったな。
の足音、全然聞こえなかったな。
そんなことを思いながら、机に伏せていた。
耳をすませば、話し声が聞こえる。





「ホームルームで使う資料が多いから、運ぶの手伝ってって先生が言ってたの。
 私、昼休みは生徒会の当番だから抜けられなくて、お願いしてもいい?」

「あ、うん、いいよ、俺がやっとく」

「ってかさ、柊くん、大丈夫なの?何か変じゃない?体調悪いのかな、今も寝てるし」

「最近、ちょーっとだけ挙動不審だよな。センサイな男心は俺にもわかんねーよ」





「心配だなー」と鳥のさえずりのような呟きが聞こえた。
心配してくれてありがとう。そして、心配かけてごめんなさい。
が去った後、「好きな女に心配されるようじゃ、柊もまだまだだな」と男に言われ、背中をバシっと叩かれた。










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女々しいから、ヒロインが仁成さんに片想いする話に書き直そうか悩みました。
でも、たまにはこんなのもいいかなと思いつつ。
男の人でもこんな風に思うことは、あ、あるんじゃないですか?…ね?

I'll dream ... ?
dream select page ... ?

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