[ 続 ・ 悪 戯 ]







せっかく二人きりのデートだったのに、仁成は疲れて眠そうな顔ばかりしていた。
互いが元気なときにデートできればいいのに。
運動部員の仁成とそうでない私との付き合いは難しいな。
疲れていても、私に付き合ってくれる優しさが嬉しかった。
申し訳なくなって、「仁成の家、帰ろうよ」と言えば、仁成は「ごめんな」と同じく申し訳なさそうな表情を見せる。
仁成は悪くないのにね。

仁成の家に戻ると、「眠いっ」と呟いて仁成はベッドの上に寝転がる。
晩ご飯をバスケット部のみんなと一緒に食べる約束をしているから、私はそれまで雑誌を読んで時間をつぶす。
しばらく経つと、仁成の寝息が聞こえてきた。
余程疲れていたんだろうな。寝転がってから、そんなに時間は経っていないのに。

無防備な仁成。きれいな寝顔。
目を瞑っていると、鋭い視線は隠されるから女の人のように見える。
白い頬に触れる。つるつるの肌、うらやましい。

ふと、昔のことを思い出した。
学校の屋上で、仁成の頬をつねったりいじりまわしたりしたことを。
いつも悪戯されてばかりの私は、仁成たちからの悪戯から耐え抜くことを決心したんだ。

私はひとりニヤニヤしながらかばんの中のポーチを取り出す。
ピンクいろのチークを見つけて、仁成の頬に少しずつ入れる。
それだけで血色のよい美人さんになる。
次にハイライトを目の下と眉の下にいれる。
仁成の肌がきらきらしていて眩しい。
最後にリップクリームを下地に塗って、ラメのピンクグロスをたっぷり唇に。

我ながら上出来じゃないか!
眠ったままの仁成は、どこのレディでしょうかと尋ねたくなるほど美人になっていた。
携帯のカメラでパシャと撮影。
頭を少し働かせて、バックアップのために画像のコピーをパソコンのメールに送っておく。
仁成にバレたら削除されるだろう。それくらい、私にもわかる。

仁成はまだ起きそうにない。
私は携帯からヘアカタログサイトに接続して、適当な髪型の画像に仁成の顔画像を当てはめる。
ロングヘアも捨てがたい、けれどミディアムでパーマ当てているのも似合う。
ひとりでどれだけの時間をつぶしただろうか。
気がつけば窓からオレンジ色の光が差し込む時間になっていた。
疲れのとれた仁成も、目を覚ました。





「あー、よく寝た。、つまんなかったろ?」

「いやぁ、全然。楽しかったくらいですよ」

「は?」





私は笑いながら起きたばかりの仁成の顔を携帯で撮影する。
そして、きょとんとしている仁成の目の前に、撮影したばかりの画像を出した。
仁成のしかめっ面、笑い転げる私。
悪戯大成功。
洗面台の前の鏡で自分の顔を見て「女みてぇ」と呟く仁成。
ズカズカと私の傍に寄り、私の顔をにらみつける。
にらみつけられると、萎縮してしまう。
床に座ったままの私は、後ずさりする。
仁成は、じりじりと迫ってくる。







「へ?」

「唇、乾燥してるぞ」

「え?」





仁成はニヤと楽しそうに笑っていて。
私は自分の唇にそっと指で触れた。
仁成は、私の手首を掴んで唇から指を離させる。
私が真っ赤にさせた仁成の唇に目が惹き付けられる。
そんなグロスたっぷりの唇でキスされたら、私の唇も真っ赤になるよ。
そうさせたかったんだよね、仁成は。

仁成とのキスで中途半端に色づいた唇。
私は鏡を見ながらグロスを塗りなおす。
仁成にメイク落としシートを1枚渡して、メイクを落とさせることも忘れない。





のその唇見てるとさ・・・」

「ん?」

「どうしてもキスしたくなるんだよな」





私が顔を真っ赤にするのと同時に、仁成の唇がまた私の唇に触れる。
今度は仁成の唇が中途半端に色づく。
またメイク落としシートできれいに拭き取っていた。

「そろそろ行こうか」
仁成が時計に目をやった。
もう5時半。待ち合わせは5時50分。

「うん」と返事をして私と仁成は家を出た。





仁成は、重要なことを忘れてるよ。
私の携帯に、仁成の画像がたくさん保存されているってことを。









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昔のアンケートを見ていると「悪戯がお気に入り」という方が数人いたので。
続編書いちゃいました。
でも、結局仁成さんの勝利ってとこですよね。


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