[ 繋 ぐ ]





苦しくて苦しくて、ただ呼吸をするだけなのにうまくいかなくて。
涙が出てくる。
この胸を締め付けるのは何?
それを恋と呼ばずに何と呼ぶ?

あの胸に飛び込んで、その腕で強く抱きしめてほしい。
その指で頬に触れてほしい。
あの肩にもたれかかりたい。
その口で、私の名前を奏でてほしい。
その唇に触れたい。
そんなことばかり考えている。
まるで欲求不満の塊のようだ。



?どうした?どっか行ってただろ」
「あ、うん。ごめん。妄想癖?」
「別に俺だからよかったけど、他の奴らだったら怒るかもしれねえから気をつけろよ」
「うん」



あなたのことを考えてどこか遠くへ行ってました、なんて言えない。
怖くて言えない。
仲のよい友達だから。
こうして、登下校を共にできるだけでも私は運がいい。
だからこそ苦しい。
もっと、もっと、と欲張ってしまうから。

この身体、柊くんの前に投げ出してみようか。
どういう反応を見せるかな。
興味はある。
でも、マイナスの反応には耐えられない。
プラスマイナスゼロなら大丈夫?わからない。
プラスの反応をしてくれれば嬉しいけれど、するとは思えない。
私に必要なのは、今の関係を打破して、その後のことにも耐えられるだけの勇気を持つことだけ。

ほんの少しだけ、手の甲と甲とがぶつかる。
「あ、ごめん」と口からこぼれた。
沈黙が続く。
勇気をふりしぼる?
少し言葉を繋ぐだけでいいんだ。
それだけで伝えたいことは伝えられる。
けれど、いざ口を開こうとするだけで、のどに何かが詰まったかのように苦しくなる。
深呼吸してみる。うまく呼吸はできるんだ。
けれど、言葉を繋ぐことができない。



「やっぱさ、今日のは変。熱でもあるのか?」
「ううん、ううん、大丈夫だよ。ちょっとオバカに磨きがかかっただけ」
「そうは見えないけどな・・・」



私は不審人物だ。
ずっと空回りしている。
ただ好きでいるだけなのにそれを伝えることもできなくて。
簡単なことができないのは難しく考えすぎているから?
体当たりできるほどの度胸はない。

「なぁ、少しだけでいいから、手、繋いでいい?」
誰の言葉だろう。
私が言ったんじゃない。じゃあ誰?
隣にいる柊くんを見ると、私をじっと見ていた。
見つめあう形になる。
目を逸らそうとしたら、柊くんに手首を掴まれた。
今の言葉を言ったのは、柊くん?
「ごめん」と言って、柊くんは私の手をぎゅっと握った。
私の頭の中はパニック状態。
わけがわからないまま、手を握られて歩いている。

離すわけがない。
ずっと、こうしたいと思っていたのだから。
制服姿の二人、手と手を繋いで歩く。
黙ったまま、時間だけが過ぎていく。
結局、また何も言えないのだ。
のどに詰まるものは一体何なの?

「ほんと、ごめん」そう言って柊くんは私の手を離した。
「もう、二度と口を聞いてくれなくてもいいから」
「俺のこと、いないと思ってくれればいいから」
私のできないことばかり言う柊くん。
もう目が合うことはなかった。
柊くんが顔を私から逸らしているから。
駆け出して私から遠ざかる柊くん。背中を見送る。
見送っていいの?
追いかけないと、きっと後悔する。
声を掛けられなくても、追いかけて捕まえないと、きっと後悔する。

私も駆け出した。
一歩一歩足を進めるけれど、なかなか追いつけない。
足を遠くへ伸ばしているのに、動作が全部スローモーションの見える。
もっと、早く走りたいのに。

引き止める声が出ない。
前を向いて一生懸命走る。
もう一度、柊くんの手の温もりを思い出す。
あの温もりを手放したくない。
もう一度、手を繋ぎたい。



「待って!待って、柊くん」
「え?」
「私は、柊くんと二度と口を聞けないなんて嫌」
「どうして・・・」
「だって好きだもの。私は柊くんが好きなの。だから一緒にいたい。もっと話したい」



言ってしまった。
欲しいものは何か考えたら、のどにつかえていた詰め物が取れた。
言葉を繋げた。
手を伸ばしたら、柊くんの手に触れた。
もう一度、今度は私から手を繋いでみた。
「ありがとう」と柊くんの声が聞こえた。









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わー・・・切ない話だ。


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