[ 太 陽 ]





いつまで経っても縮まらないな、この距離。
近づこうとしないからだ。

席替えをしたら、窓際一番後ろの席になった。
いわゆる特等席。
隣の席に机を移動させて微笑むのは、
「よろしくー」と笑顔で言われて、ドキリとしない奴はいないだろう。
とびきりの美人というわけではないけれど、笑顔がかわいらしい子だから。
「よろしく」と返事をすれば、一層微笑む。

席が近くなって、掃除当番が一緒で、何かと話すことが多くなった。
誰にでも微笑むところ、目を輝かせて人の話を聞くところ、優しいところ、の全部が好きになっていく。
これだけいい子だから、彼氏もいるだろう。
そんなことを思いつつ、日々を送る。
付き合う、そんな言葉は俺の中に無くて、ただ仲良くできればいいやと思っていた。
堀井と芳川の噂話が耳に入るまでは。



「そういや、っているじゃん。あの子、彼氏いないんだって」
「え、そうなの?美加はデート現場見たんでしょ?」
「デートじゃなかったんだって。年の離れたお姉さんの旦那らしいよ。つまんねーの」
「でも、さんかわいいから、誰か狙っちゃうんじゃない?」



彼氏がいないという情報が入った。
だから狙うというわけでもない。
やっぱり、ただ仲良くできればいい。
それ以上求めるのは、部活がある俺にとって時間を割くだけ。

珍しく、登校中にと遭遇した。
しかも電車の中。
つり革に掴まっているの姿を発見できたのは偶然だ。
隣の車両なんて、滅多に見ない。
俺は、車両を移っての隣に立つ。
「おはよう」と声を掛けると、は驚いていた。



「あ、おはよ。びっくりしたー、柊くんもこの電車乗るんだね」
「朝練がなかったからな」
「そういや、小田原に住んでるんだよね?私も小田原なの」



よく話してみると、どうやら家が近所らしい。
家から最寄の駅は同じ。
それでも今まで会わなかったのは、行動パターンが違うから。
他愛も無い話をして、時間は過ぎる。
駅の改札をくぐれば、毎日見慣れた町並み。
隣に人がいるということぐらいだ、違うのは。
の肩が時々俺に触れるのは、気のせい?
単に、俺が意識しているだけ?それとも・・・。

の微笑だけが天へ向かって上っていく。
空気は、俺の微妙な心境なんて伝えてくれないよ。

俺にはお構いなしで、時間は過ぎる。
景色も過ぎる。
校門をくぐり、靴を履き替えて階段を上って教室へ入る。
席についたら、窓越しの空を眺める。
「ほんっと、いい天気だね」とが目を細めて言う。
太陽に光がまぶしい。

きっと、まぶしいから近づけないんだ。に。









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はははー。
本当に、まぶしい人っていますよね。
私の元バイト仲間である相棒さんは、いつも明るくて元気でまぶしいです。

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