[ プ リ ン ア ラ モ ー ド ]





「プリンだよー」と、嬉しそうには冷蔵庫からプリンを取り出す。
3個セットになったプリンの外包装を破き、テーブルに置かれたのは2個のプリン。
俺が首を振ってプリンはいらないと伝えると、は「なんでー」と叫んでプリンのふたを開ける。
プリンをすくったスプーンは俺の目の前に差し出されていた。
食べろというのだ。
しかたがないので口を開ける。
は俺がプリンを食べたことに満足しているようだった。笑っている。



「おいしい?」
「あぁ」
「よかったー」



はどんどん俺にプリンを食べさせる。
どうしてそんなにプリンを食べさせたいのか、さっぱりわからない。
結局、いらないと言ったのに全部食べてしまった俺は、一体なんなんだ?
はもうひとつのプリンのふたに手を掛ける。
まさか、もう1つ食べさせられるのでは?と最悪な予想が浮かぶ。
けれど、はそれをもくもくと食べ始めた。
はっと気づいて、俺はの手からスプーンをとる。
「ほら」との目の前にプリンをすくったスプーンを差し出す。
きょとんとしていただけれど、すぐに気づいて嬉しそうに笑って口を開く。
そうやって、全部の口にプリンを運んだ。

プリンは甘い。

甘いものを食べると、空気が和らぐ。
きっと、糖分の摂取と、目の前にがいることと、そのふたつがあるから甘いんだ。
たまには甘いものを食べるのもいいもんだ。
食後のデザート。
幸せを運んでくれる。

ひとりぐらしの部屋は殺風景で、人が一人増えただけで別の風景になる。
シンクに置かれた食器も2倍。
靴箱の外に並べられた靴も2倍。
何もかも、2倍に増えるんだ。

片付いたテーブルの上に雑誌を広げる
チラチラ俺を見る。
首をかしげると、はごそごそと動き出す。
向かい合わせに座っていたけれど、が移動して今は隣同士。
身体を俺にぴたっとくっつけてくる。
肩にの頭が置かれ、手はとぎゅっと繋がれ、の空いた手は雑誌をめくっていく。



「なんかさ」
「ん?」
「仁成と一緒にいると落ち着くんだよね」
「そうか?」



家にいてもひとりきり。
学校に行けば慌ただしく時間が過ぎていく。
出かければ、と楽しい時間を過ごす。
落ち着くなんて考えることもなかった。
ひとりきりは、落ち着くとは言えない。
自分のことだけ考えていても、安らぎなんて感じない。

誰かが傍にいてその空気に酔えたら、落ち着くのだと思う。

こういうのを、「落ち着く」と言うのかもしれない。
ふわふわと空に浮かんだような、甘いものを食べた後のような。
そんな、幸せなとろけるような感覚。

隣にいるの頬に手を添えて、もう目は雑誌にやらせはしない。
口づけて、離さない。
キスの味は、プリンの味。
甘い時間が流れていく。









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淋しいって思ったら、ひとりきりでいても落ち着くことなんてないと思う。

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