[ あ ふ れ る く ら い ]





電車に乗って気づく。
「峰藤先生からメールで呼び出されてたのに、すっかり忘れてた」
発車してしまった電車は次の駅まで止まらない。
先生にはメールしておこう。
明日、お詫びの品でも添えて、伺います。

すぐに先生からは返事が届いた。
「たいしたことじゃないから明日でいいよ」と。
たいしたことじゃない、けれど直接話したい。
どんな内容なのだろうと気になると眠れない。
私は、電車の扉が開いた瞬間、駅のホームに降り立って、反対側のホームへ走る。
ちょうど到着した電車に乗れた。
なんだかわくわくしてきた。

駅の改札をくぐって走る。
息を切らして着いた学校はいつもどおり。
体育館へ駆け込むと、バスケ部が練習中。
仁成もそこにいる。
峰藤先生もそこにいる。
先生は端で佐伯さんと話していた。
私は「こんにちは」と笑顔であいさつした。
横目で、仁成がコートにいることは確認済み。
仁成は、私の登場に驚きつつも、練習に励んでいた。

で、先生の一言。

「仁成の成績、悪かったんだけど?」

そうくるか。
峰藤先生は私のことを勘違いしている。
恋人は保護者じゃない。
私に仁成の成績の責任は一切ない。





「しかたないだろ。部員の成績悪かったら、部活にも影響出るんだから」

「と言われましても、わたくし、仁成の保護者じゃないし、家庭教師でもないし」

は、ほぼ仁成のカテキョだろ?」

「まぁ、そうといっちゃそうですけどー」





実際、仁成と一緒にテスト勉強をしているのは私だから、否定はできない。
けれど、テスト勉強している段階では、理解できていないところはほとんどなくて、むしろ私が教えてもらう立場だった。
テスト中に異変はあったか???
思い出してみるけれど、仁成の顔はいたって普通だった。
あぁ、少し、強張った感じがしたけれど、もしかしたらそれが原因なのかもしれない。
カウンセリングしなくちゃ、と意気込んだ私は、部活が終わるまで臨時マネージャーとして佐伯さんの手伝いをした。

バスケをしている仁成はとびきりかっこいい。
とても素敵だ。
キラキラ輝いて、私の目に映る。
胸が高鳴る。
ドキドキが止まらないんだ。
眺めているだけなのに、退屈しない。

部室の外で、仁成が来るのを待つ。
部活は終わった。
あとは帰るだけ。

「待たせたな」と仁成は言う。
部室の扉を閉めると、仁成は私に手を差し出した。
私は仁成の手を握る。
仁成が、私に手を差し出すなんて、生きていれば珍しいことも起きるものだ。





「そういえばさ、テスト悪かったんだって?」

「あぁ、聞いた?」

「『あぁ』じゃないよー。峰藤先生に文句言われるのあたしなんだけど」

「ごめん。・・・ちょっと、考え事してて、テストに集中できなかったんだ」





のことを考え出したら、頭の中がでいっぱいになってさ・・・」
と、冷静な顔で言うのだ。
私はその言葉が理解できず、きょとんとしていた。
飲み込めた瞬間、顔から火が出た。
鏡で見れば、真っ赤な顔をしているだろう。
「な、何言い出すのよ」と言いながら仁成を見たら、耳まで真っ赤にしていた。









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ここで終わるんスか?と言われそうですが、終わります(笑)
なんだか軽いノリの楽しい話が書きたくなったので。

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