[ 愛 情 の 玉 手 箱 ]





幸せになりたい。
その為には愛が必要。
愛を得るには、媚びればいい?
媚びたって、得られるのは金銭的価値があるものだけ。
ブランドのバッグや財布がほしいんじゃない。
指輪やピアスがほしいんじゃない。
愛がほしいだけ。
優しくされたいだけ。

ただ優しくしてほしいのに、この人は私にわかりやすい優しさはくれないんだ。
それでも嫌いになれなくて、好きじゃないなんて言えないの。
すごくすごく好き。

手を握れば、握り返してくれる。
けれど、身体を寄せて髪をもてあそんでも、何もしてこない。
キスしてほしいなと思っても、してくれない。
意思の疎通がうまくいかない。
ううん、甘えたいときに、仁成が優しくしてくれないだけ。
仁成に抱きついたけれど、反応は薄かった。
手は背中に添えられるだけで強く抱きしめてくれるわけでもなく、あごを私の肩にちょんと載せただけ。



「ひとなりー」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない」



甘えたがりな私の心を見透かしてくれればいいのに。
自分から「甘やかしてくれ」なんて言えないよ。
優しくされることで、自分の存在意義を見出せるなんて言えない。
誰かに必要とされたいんじゃなくて、誰かを必要としているだけ。
荷物はいらない、きっと。
だから、仁成は、私のことを必要としていないと思う。
荷物は、いらないよ。

仁成が「荷物はいらない」って言うまで、しがみついていようと思う。
拒絶されるまで、少しでいいから優しくして欲しい。
誰でもいいわけじゃない。
仁成がいい。
仁成の優しさがほしい。

「つかれた」呟いた仁成の言葉に私は反応する。
仁成の腕が私の首に巻かれる。
驚いた私は、仁成の胸から頭を離して仁成の顔を見る。
すると、仁成は私の胸に顔をうずめる。
いつもと立場が逆だ。
仁成が私に甘えてくるなんて、珍しい。



「ど、どうしたの?」
「なんでもない。・・・けど、といると落ち着くんだ」
「そっか」



仁成の、さわやかないい匂いがする。
髪をすいて、頭をなでてみる。
なんだか、かわいい。
バスケをしているかっこいい仁成に惚れたのだけど、今の仁成は小さいこどもみたいにかわいらしい。
ぎゅーっと抱きしめてみると、仁成も抱き返してくれる。

甘えられることがあまりなかったから、わからなかったんだ。
仁成が甘えたいと思っていることも、「たまには甘えてほしいな」と私が心の隅で思っていることも。




「ん?」
「もう少し、このままでも、いいか?」
「もちろんよ」



優しくされたいだけじゃなかったんだ。
愛がほしかっただけ。
与える愛も、与えられる愛も。
それに気づかなかった私はバカだけれど、今気づいたからそれでいい。
もっと仁成のこと、愛してあげるから。
そしたらきっと、仁成は私のことを、もっと愛してくれるよね。
ぎゅーっと仁成を抱きしめると、仁成の静かな寝息が聞えてきた。

いつも、おつかれさま。
今日はゆっくり休んでね。









**************************************************

こーいうシチュエーションが思いついただけです。

inserted by FC2 system