[ ペ イ ル ]





目と目が合うのは俺が見すぎているせいだと思っていたけれど。
少しはうぬぼれてもいいのかなと思ったりもする。

移動教室で廊下を歩くときは、必ず目だけ動かして教室の中を見る。
今はいないなと思って前を向くと、そこにがいたりする。
驚いて俺は何も言えないけれど、は「柊くん、おはよう!」と笑顔で声を掛けてくる。
学年集会で体育館に集まった時、いつも見つけられる姿。
いつも目で追ってしまう姿。
目が合った気がする。
微笑んでくれた気がする。

なんだか女々しいなと思う。
見ているだけで、行動になんて移せない。
話しかけることもできない。
ため息ばかりついている。
いつも、見ているだけ。
ただ、見ているだけ。

好きなら好きと言うべきなのだろうか。
けれど、言ったところで付き合えるわけじゃない。
毎日学校、休みの日は部活。
会えるのは学校だけ、いつもと変わらない。
それじゃあ、意味がない。
意味のないことに力を入れられるほど、余力はない。
触れてみたいとか、一緒にいたいとか、思うことはいくらだってできる。
俺はと何かしたいと思うけれど、相手はどうだ?俺と何かしたいと思ってくれるか?

考えれば考えるほど、混乱する。
しばらく考えるのはやめだ。

「柊くん!」と俺の心臓を突き破るような声。
暗くなった学校の帰り道、が自転車に乗って俺の隣にやってきた。





「今帰り?」

「あぁ、部活」

「そっか、私も帰りだから途中まで一緒にかえろ」





学校の近所に住んでいるは自転車通学。
俺は電車通学。
途中まで、どれだけ短い距離だろう。
本当はできるだけ長い時間一緒にいたい。
けれど、一緒にいる時間をどう使う?何を話そう?沈黙を作らないようにできるか?
そんなの無理に決まってる。
結局矛盾しているんだ。
の傍にいると、うまくできないんだ、何もかも。
呼吸すらうまくできない。
どうかしてるよ、俺は。

「気分悪いの?」と心配そうに俺の顔をのぞきこむ
互いの距離が近い。
飛びのいてとの距離を作る。
俺は不審だろう。
はそれでも「大丈夫?」と尋ねるのだ。
大丈夫なわけない、が傍にいるのに。
もう半笑いで精一杯。

「うん、じゃあ早く帰ろう!」笑顔では言った。
俺の本心なんてきっと知らない。
けれど、とにかく早く帰った方がいいと思ったんだ。
自分の言葉で何も伝えられない。代わりに表情で、無理に理解させた。
情けない。
好きだとか、一緒にいたいとか、そういうことを言えたもんじゃない。

黙って少し歩くと落ち着いてきた。
隣を歩くも、柔らかい表情をしていた。





「さっきはどうなるかと思っちゃったよ、柊くんの顔色最悪だったもん」

「そんなに?」

「うん、倒れそうだった。元々色白なのに、青白くなってて」

「別に体調悪いわけじゃねえんだけどな」





はきょとんとして首をかしげた。
意味がわからないらしい。
けれど「体調悪くないんだったら大丈夫だよね、きっと」と言い、前を向いて歩く。
は目を伏せていた。口元は緩んでいて、笑っているようだった。
幸せをかみしめる、そんな表情。
そして、クスクス笑い出すんだ。

逆に俺はきょとんとする。
唐突にが言うんだ。
「柊くんって、物静かな子だと思ったけど、一緒にいて飽きないね。すっごくおもしろい」
少なくとも、に嫌われてないんだなと認識できた。
身体の力が抜けて、なんだか笑えた。









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中途半端な話好きですね、わたし。
両想いなんだけど、くっつけないでいる人たち。みたいな。


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