[ レ ッ ド ペ ッ パ ー ]





楽しそうな笑い声が聞こえた。
声の主はだとすぐわかる。
部室の外に待たせたの顔が見たくて、いつもより素早く着替えた。
大きな音をたてて部室から飛び出したら、音に驚ききょとんとした顔のと知らない男がいた。
眉間に皺を寄せると、「じゃあ、また明日!」と男は言って足早に去っていく。
は、「にらんだら怖いよ」と困った顔で言った。
嫉妬して、何が悪い?

好きな人の隣に知らない男がいて、ふたりそろって微笑んでいる。
俺以外の誰かに向かって笑いかけないで欲しい。
俺以外の男と話をしないで欲しい。

もっと大きな器を持つべきだと言われる。
寛容になれ、穏やかになれ、言われて実行できるならやっている。
できないんだ。
不可能を可能にする方法があれば教えてくれよ。





「なんかさ、嫉妬、丸出しじゃない?」

「悪かったな」

「悪いとは言ってないよ。でもさ、生きていくうえで、老若男女問わず人間関係の構築は必要よ」

「だから、が悪いんじゃなくて、俺が悪いんだからいいだろ」





がため息をつく。
と一緒にいる時間が待ち遠しくて部室から飛び出したのに、俺がその空気をぶち壊した。
欲求不満を解消する手立てはないか?
結局、何もわからないんだ。
誰かに、手取り足取り教えられないと何もできないんだ。
自分はこんなに頼りなくて、ひとりで何もできない人間だったのかと思うと、情けなくなる。
を好きでいられる資格なんてない。
を守ることなんてできない。
と一緒にいたら、俺の存在はにとってマイナスになる。

考えだけが先に歩いていく。
身体はついていかない。
隣にはいるのに、俺の考えの隣にはいない。
「仁成?」と声が聞こえて我に返る。
は心配そうに俺を見て、俺の手をぎゅっと握っていた。





「大丈夫?うわの空だったよ」

「あ、うん」

「仁成が悪いとかそういうのは関係なくて。ただ、どっちかが不愉快だと思うことがあるのが嫌なの。
 私のやってることを仁成が不愉快だと思ってるのはすごく嫌だし、私がそう思うのも嫌だから」

「だから?」

「だから、いやだって思ったことはちゃんと口に出して言って欲しいの。
 直接言うのが嫌だったら電話でもメールでもいいの。
 だってクラスメイトと話してるだけで眉間にしわ寄せられたら、私も嫌だよ。
 嫉妬がどうのこうのじゃなくて、仁成を不愉快にさせてることがすごーくやだ」





俺の目をまっすぐに見て話されたら、断れない。
それ以上に、何度も見てきた目だけれど、今日は直視できない。
心臓がドクドクいってる。
鼓動がうるさくて、何も考えられない。
何も言えずにいると、は握っていた手を離した。
そしてひとりで歩いていった。
アスファルトの上を歩いているのに、がそのまま見えない階段を上ってどこか遠くへ行ってしまうような気がした。
大慌てで地を蹴る。
の姿が大きく目に映る頃、俺は無我夢中で腕を伸ばしていた。
ちゃんと、の腕を掴んだ感触があった。
「ごめん」と口から言葉がこぼれた。





「だから、悪いのは仁成じゃないって」

「ごめん、何にも考えてなかった」

「自分のことは考えていたんじゃないの?私のこともちょっとは考えて欲しいな。
 仁成のこと大好きだから、一緒にいて、笑って、楽しいことでいっぱいにしたいの。
 迷惑だったり嫌いだったら、一緒にいようなんて思わないよ。というか付き合わない」





当然のことだなと思った。
の手をとり、並んで駅への道を歩いた。
夜風が冷たくて、の手のぬくもりが心地よかった。









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恋は盲目。だから、妄想が膨らんで、思い込んでしまうんだろうな。
嫉妬するのも、されるのも、やっぱ嫌だな、あたしは。
でも嫉妬されやすい体質なんです、彼女さんから。あぁ…。
私にとっては彼氏さんが先輩だったり友達なだけなのに。
タイトルは「からい」から連想したものです。
レッドホットチリペッパーズ。聴いたことないけど。

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