私が信じられないのは、仁成のことを信じようとしない、
私のことなのかもしれないね
[ SO SORRY ]
携帯のスケジュール帳にも、ピンク色の手のひらサイズ手帳にも。
私の頭の中にもちゃんとあったのに。
時間通りデートの待ち合わせ場所に行った私は、そのまま2時間仁成が来るのを待ち続けた。
けれど、仁成が来ることはなくて、仁成と連絡も取れなくて。
落ち込んだ私が行く場所は国府津の海。
ひとり海岸を歩いていたら、高架下の石段に人影を2つ見つけた。
男の人と女の人のように思えたので、私は遠慮して海岸から引き上げようとした。
ん?と疑問に思い、もう一度カップルと思われる2人を凝視する。
見間違うはずもない、あの色白で綺麗な顔立ちの男は仁成以外ありえない。
一歩足を前に踏み出した。
その時、仁成の隣にいる女が、自分の腕を仁成の腕に絡ませた。
仁成は何をしているの?
あの人は何がしたいの?
私は軽くパニック状態になって何も考えられなくなった。
立ちすくむ私の目の前で、2人がキスをしていた。
焦点が定まらない。
目眩がする。
私はその場にしゃがみこんで叫んでいた。
気づけば、いつもの優しい声が耳に聞こえていた。
涙で濡れた頬に、仁成の手が触れていた。
あの瞬間がフラッシュバックする。
おもいきり、仁成の手を叩いて払った。
仁成の頬に平手打ちする。パンと乾いた音が響いた。
パニックになっていても、涙を流していても、言うことを言わなくちゃいけない。
「何してたの?私、2時間もずっと待ってたんだよ、仁成が来るのを。忘れちゃったの?
今日会おうって言ったのは仁成だよ! ……いいかげんにしてよ。ほんと、信じられない」
「覚えてたけど、行けなかったんだ。には悪いと思ってる」
「どうして?あの子がいたから?」
「あいつは関係ない。勝手についてきたんだ」
「勝手についてきた子に腕からませたり、キスしたりできるの?仁成はそういう神経持ってたの?
……もう、何にも信じられないよ。何を信じたらいいの、私は」
涙が止まらなくて、私はその場を立ち去った。
仁成に腕を掴まれたけれど、強い勢いでにらみつけて振り払った。
その後のことはあまり覚えていない。
気づけば、自分の部屋のベッドの上に転がっていた。
床に、かばんと脱ぎ捨てたジャケットが散らばっていたけれど、散らした記憶はない。
腫れた目を隠すこともできず、私はありのままの姿で学校へ行く。
歩みはとても遅い。
校内に入り、階段をのろのろ上る。軽いはずの教室の扉は、いつもより重く感じた。
衝撃的だったことは、私の席に仁成が座っていたこと。
私は、仁成の隣に立ち、冷たい目で仁成を見ていた。低い声しか出なかった。
「退いてよ」と低音が響き、周りにいた子たちは皆、ぎょっとしていた。
仁成は黙ったまま私の席から立ち上がる。
口を開きかけた仁成を見て、私は仁成を制す。
にらみつけたら、仁成は「・・・昼休み、屋上に来い」と小声で言ってその場から去った。
本当は行かないつもりだった。
けれど、授業中も休み時間も、ずっと仁成から何の話をされるのか考えていた。
結局、誘いに乗って行ってしまったのだ、屋上に。
そわそわして落ち着かない。けれど、屋上で仁成と穏やかにお弁当を食べられるはずもなく。
私は、教室で友達といつも通りを装ってお弁当を食べていた。
最後の一口を惜しむように、しっかり噛んで食べた。
のどをゴクリと音を立ててごはんが通っていく。
水筒のお茶を全部飲み干して、私は意を決して立ち上がる。
「いってらっしゃい」と穏やかに言ってくれる友達に感謝して、私は一歩一歩踏みしめながら階段を上り屋上へ向かった。
屋上の扉は少しだけ開いていた。
太陽の光に目を細める。
日焼け止めをぬっておけばよかったなと後悔しつつ、私はフェンスにもたれてこちらを見ている仁成の元へ向かう。
とても緊張する。
こんなふうに冷たく接しあうことはいままでなかったから。
「仁成……。私、どうしたらいいの。もう何も考えたくない」
「ごめん、ずっと部活のことで頭がいっぱいで。
との約束守らなくちゃいけないとは思っていたけれど、国府津の海に来たら身体が動かなくなって。ほんと、ごめん」
仁成が頭を下げるところを初めて見た。
それよりも、私は仁成が苦しんでいることに気づいてあげられなかった。
それが悔しかった。涙があふれてくる。言葉が出てこない。
私は「顔をあげてよ」と言う代わりに、仁成に抱きついた。
ごめんと言わなくちゃならないのは私のほうだ。
仁成のことも考えずに、ただ目に入ったことだけを信じて、仁成のことを信じようとしなかった。
私が信じられないのは、仁成のことを信じられない、私のことだったのかもしれない。
ガタンと音がして、我に返った。
お互い抱き合っていたことに気づき、さっと離れる。
音のした方向を見ると、屋上の扉の前に昨日の女の子がいた。
「ごめんなさい」と小さな声で、深々と頭を下げて言った。
「好きだという気持ちが抑えられなくなって、でも、私じゃ柊くんの力にはなれないんだってよくわかった」
誰もが、好きな人の力になりたいと思っている。
私は仁成の力になることができる位置にいるのに、力になろうとしなかった。
仁成の彼女と名乗る資格なんてない。
彼女に何か言わなくちゃと思ったのに、なかなかよい言葉が浮かばなかった。
代わりに仁成が彼女に声を掛けていた。
「ごめん、気持ちは嬉しいけれど、俺は以外に力になってほしいと思えないから」
私は、その言葉を聞いて、本当に申し訳ないと思った。
仁成の期待に応えないと。
彼女の後姿が扉の向こうへ消えていった。
何度も何度も「ごめん」と仁成は言ってくれた。
私はただ頷くだけだった。仁成の気持ちはよくわかる、とても伝わってくる。
ごめんと言わなくちゃいけないのは、やっぱり私のほうだから。
私は、仁成をぎゅっと抱きしめた。私も「ごめん」と何度も言った。
私のことを抱きしめ返してくれたのは、私のことを許してくれたから、かな。
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アンケートより、けんかしちゃうお話。
どういうことでけんかするのかわかんなくて、いろいろ考えたけど、
結局私が書くのはこの程度なんだってことで。
バリエーションに欠けてるよね…。